数字と報道
全員を調べる統計なら、誤差はなくなる?
定めた母集団の全員を実際に測定できれば、一部を選ぶことで生じる標本誤差はなくせます。しかし、数え漏れ、回答の誤解、未回答、集計ミスまで消えるわけではありません。知りたい地域や集団、必要な速さ、測定の手間に合う設計を選ぶことも、統計の質に関わります。
基本の用語
母集団は、統計で知りたい人や事業所などの集まりです。全数調査はそのすべてを対象にし、標本調査は一部を選んで全体を推定します。「住民全員」と言うときも、地域、時点、住民の定義を決める必要があります。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 統計の数字は、何を数えたもの?対象・分母・期間・平均を確かめる
全員を対象にすることと、正しく測ること
同じ母集団から一部を選び直すと、選ばれる人が変わり、平均や割合も変わります。この抽出によるばらつきが標本誤差です。定めた母集団のすべてを実際に測定できれば、どの一部を選んだかという違いはありません。
ただし「全数を対象にした」という設計と「全対象の正しい値が得られた」という結果は別です。調査票を全世帯へ配る計画でも、一部に届かなかったり、届いても答えが返らなかったりすれば、情報は欠けます。全数という名称だけで、結果に誤りがないとは判断できません。
一覧の漏れや質問の誤解は全数でも残る
誰に調査するかを決める一覧を、調査枠と呼びます。その一覧から新しい世帯が漏れる、同じ事業所が二度載る、すでに閉じた事業所が残る、といった問題は、全数調査にも起こります。一覧の全件を調べても、知りたい母集団と一覧が違えば、母集団の全数を測ったことにはなりません。
対象一覧が合っていても、質問の意味を取り違える、答えを記憶違いで書く、入力時に桁を誤る、といった誤りは残ります。これらは抽出によらない非標本誤差です。未回答も含め、どの段階で情報が欠けたり変わったりしたかを見ます。
特に、同じ質問の誤解が多くの回答を同じ方向へ動かす場合、調査人数を増やすだけではその偏りを除けません。だからこそ、対象一覧の更新、分かる質問、回答の確認、処理の管理も必要になります。人数の大小と、測定の質を分けて考えます。
何をどれくらい早く知りたいかで選ぶ
全数調査は小さな地域や人数の少ない集団まで調べたい場合に役立ちます。全国の標本数が十分でも、ある町の回答がごく少なければ、その町だけの数字には大きなばらつきが残り得るためです。どこまで細かく答えが必要かが、設計を選ぶ出発点になります。
一方、広い母集団を全数で調べると、回収や処理に多くの費用と時間がかかります。一部を選ぶことで、必要な速さで結果を出したり、一件ごとの聞き取りや確認へ手間を掛けたりできる場合があります。専門の測定者や高価な装置が必要な調査でも、標本の方が実施しやすいことがあります。
比較したいのは「多く調べたか」だけではありません。必要な地域別の細かさ、繰り返す頻度、測定方法、抽出誤差とそれ以外の誤りへの対処を合わせて見ます。全数と標本にはそれぞれ使う理由があり、目的を離れて一方を常に正確と決めることはできません。
住宅をすべて調べる計画でも
架空の例
ある町が、ある日の全世帯の住宅状況を調べるとします。対象一覧には古い住所が残り、新しくできた住宅の世帯が載っていません。一覧の全件に調査しても、新しい住宅の世帯の状況は分かりません。
一覧を更新した後も、質問の「部屋」に台所を含める人と含めない人がいれば、数え方がずれます。この問題には質問を具体化する対応が必要です。調査対象を増やすことと、誤りの原因を直すことは別の作業です。
持ち帰る見方
- 母集団の全員を測定できれば、一部を選ぶことによる標本誤差はありません。
- 対象の漏れ・重複、測定、未回答、処理の誤りは全数にも残ります。
- 必要な細かさ・速さ・測定負担に合う設計を、誤りへの対処と合わせて見ます。
次に広がる疑問
- 調査の一人の回答は、何人分として数える?
- 行政の登録記録は、住民全体をそのまま表す?
順番に読んでいる方へ
数字を作る方法から、比較と予測へ・3 / 15
調査と比較を設計する・2 / 13
出典
Survey Methods and Practices(カナダ統計局(Statistics Canada))https://www150.statcan.gc.ca/n1/en/pub/12-587-x/12-587-x2003001-eng.pdf
確認日:2026-10-04
本文の出典・補足
全員を対象にすることと、正しく測ること
全数調査は定めた母集団のすべての単位から、標本調査はその一部から情報を集める。全数を実際に測定できれば、抽出する一部が変わるための標本誤差はない。
- 対象
- 3.1、印刷頁19~20
- 条件
- 定めた母集団を全数測定した場合の抽出誤差
- 例外・限界
- 対象の定義・非回答・測定の誤りを排除した意味ではない
Survey Methods and Practices(カナダ統計局(Statistics Canada))https://www150.statcan.gc.ca/n1/en/pub/12-587-x/12-587-x2003001-eng.pdf
一覧の漏れや質問の誤解は全数でも残る
全数調査にも、対象一覧の漏れ・重複、回答の測定誤り、非回答、処理の誤りという非標本誤差があり、系統的な偏りは人数を増やすだけではなくならない。
- 対象
- 3.3.2、3.4.2~3.4.2.3、頁27・31~33
- 条件
- 対象一覧と真の対象の区別、無作為の誤りと同じ向きに偏る誤りの区別
- 例外・限界
- 調査人数が少ないほど必ず正確という主張ではない
Survey Methods and Practices(カナダ統計局(Statistics Canada))https://www150.statcan.gc.ca/n1/en/pub/12-587-x/12-587-x2003001-eng.pdf
何をどれくらい早く知りたいかで選ぶ
全数と標本の選択では、必要な地域別・少数集団別の情報、費用、調査から公表までの時間、測定負担を考える。標本調査が速さや調査管理で有利な場合もある。
- 対象
- 3.1、印刷頁19~21
- 条件
- 目的・母集団規模・測定方法次第の設計選択
- 例外・限界
- 全数/標本の一方が常に優れるとはしない
Survey Methods and Practices(カナダ統計局(Statistics Canada))https://www150.statcan.gc.ca/n1/en/pub/12-587-x/12-587-x2003001-eng.pdf