経済の基礎
片方の値上げで他方を増やすなら、逆の関係も同じ強さ?
同じ人の満足を固定した補償需要が滑らかなら、二つの財を入れ替えた交差価格の傾きは等しくなります。所得を固定した通常需要や、割合で測る弾力性が同じになるという意味ではありません。比べる固定条件と単位をそろえます。
基本の用語
交差価格反応とは、一方の価格が変わったときの他方の購入量の反応です。ここでは所得ではなく、効用の目標を固定します。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- コーヒーが値上がりすると、紅茶と砂糖の売れ方はどう変わる?別商品の値段も、対象商品の需要を動かす。
- 買う量を比べるとき、収入を固定する場合と満足を固定する場合は同じ?予算固定の通常需要と効用固定の補償需要を具体的な買い方で対比する。
補償需要の二つの傾きは一致する
例えば茶の価格を少し上げたとき、同じ満足を守るためにコーヒーをどれだけ増減するかを考えます。逆にコーヒー価格を上げたときの茶の反応も考えます。二つは向きを入れ替えた交差価格の微分です。
補償需要が一意で、価格について連続微分可能なら、この二つの微分は一致します。h_xのy価格への傾きと、h_yのx価格への傾きが同じ、というSlutsky行列の対称性です。比較対象は同じ人、同じ価格表、同じ効用水準です。
最低支出の価格微分が購入量になるShephard補題から、二つの反応は同じ支出関数の二階の微分になります。滑らかな関数では、微分する価格の順を入れ替えても等しいことが、経済的な対称性を支えます。
茶価格に対するコーヒー量の反応と、コーヒー価格に対する茶量の反応を、同じ価格表の一点で計算します。茶が高い時期の傾きと、コーヒーが高い別の時期の傾きを並べるだけでは、対称性を確認したことになりません。
同じ数量単位と価格単位をそろえる
数量と価格の単位を明記します。茶の量を杯、コーヒーの量を袋で表すなら、交差反応の単位はどちらも杯×袋/円になります。自分の財の量だけを何倍か付け直した場合、対応する単価も合わせて変更する必要があります。
対称なのは一円の価格変化に対する数量の変化です。価格を何%変えたとき数量が何%変わるかという交差価格弾力性では、元の価格と数量でさらに倍率を掛けるため、その数値まで対称とは限りません。
同じ行列には負半定値という性質もあります。特に自己価格への補償需要の傾きは非正です。交差反応が正か負かという二財の代替・補完と、自己価格の方向を同じ符号で扱わないようにします。
価格微分の対称性は、他方の自己価格への傾きと等しいという意味でもありません。自己価格反応は対角の要素、交差価格反応は別の要素です。二財の式で、微分する価格の添字を入れ替える操作を確かめます。
通常の買い物では所得効果が加わる
所得固定の通常需要には、価格変更で購買力が変わる所得効果も入ります。一方の財を多く買っているか、各財が所得増加へどう反応するかによって追加の項が違うため、通常需要の二つの交差微分は一致しなくてもかまいません。
この違いは、販売数量のデータから一方の価格反応を測れば、逆の反応も同じだと決めてはいけない理由です。実際の販売量を、効用固定の補償需要として観測したかどうかを確かめる必要があります。
最安案が複数の点や、価格変更で最適案が急に切り替わる折れ点では、微分の前提を外れます。左右で異なる反応を、一つの対称な微分値へまとめません。
例の二つの交差微分が正なのは、満足を保つため、片方が高くなると他方を増やす純代替関係があるためです。対称性自体は正の符号を指定しません。純補完の場合は、負の交差反応にも同じ対称条件を使います。
- 補償需要の交差微分
同じ効用・滑らかさの条件で対称。
- 通常需要の交差微分
所得効果が加わり、対称とは限らない。
- 交差価格弾力性
数量と価格で換算した割合は別の数値。
対象の価格表・効用水準・単位をそろえる。
架空の例:同じ支出関数から二つの反応を求める
効用√(xy)の目標を6へ固定すると、最低支出はe=12√(p_xp_y)です。補償需要はh_x=6√(p_y/p_x)、h_y=6√(p_x/p_y)になります。全価格は正とします。
h_xをp_yで微分しても、h_yをp_xで微分しても3/√(p_xp_y)です。p_x=4、p_y=1なら両方1.5です。一方、その点の数量はx=3、y=12で同じではありません。量の一致ではなく、交差する二つの局所的な傾きの一致です。
持ち帰る見方
- 対称性が成立するのは、同じ効用を固定した数量の価格微分。
- 通常需要・弾力性・数量そのものの一致へ広げない。
次に広がる疑問
- 補償した代替と、実際に見える代替はどう違う?
順番に読んでいる方へ
出典
Consumer Theory — MIT 14.121 (2015)(MIT OpenCourseWare / Alexander Wolitzky)https://ocw.mit.edu/courses/14-121-microeconomic-theory-i-fall-2015/ea9f11b15ace05e7bfd31d58ae48beb9_MIT14_121F15_2S.pdf
確認日:2026-10-07
本文の出典・補足
補償需要の二つの傾きは一致する
滑らかな補償需要の交差価格微分は、二財の順を入れ替えても等しい。
- 対象
- 効用固定の交差価格微分の対称性と、所得固定では非対称になりうる点を単位で説明する。
- 条件
- 価格正、補償需要一意で価格について連続微分可能、同一人・同一効用水準・同じ数量/価格単位。
- 例外・限界
- 対称なのは数量の価格微分で、弾力性や通常需要ではない。複数最適解・折れ点へ延長しない。
Consumer Theory — MIT 14.121 (2015)(MIT OpenCourseWare / Alexander Wolitzky)https://ocw.mit.edu/courses/14-121-microeconomic-theory-i-fall-2015/ea9f11b15ace05e7bfd31d58ae48beb9_MIT14_121F15_2S.pdf
同じ数量単位と価格単位をそろえる
補償需要の価格微分の行列は対称で負半定値である。
- 対象
- 効用固定の交差価格微分の対称性と、所得固定では非対称になりうる点を単位で説明する。
- 条件
- 価格正、補償需要一意で価格について連続微分可能、同一人・同一効用水準・同じ数量/価格単位。
- 例外・限界
- 対称なのは数量の価格微分で、弾力性や通常需要ではない。複数最適解・折れ点へ延長しない。
Consumer Theory — MIT 14.121 (2015)(MIT OpenCourseWare / Alexander Wolitzky)https://ocw.mit.edu/courses/14-121-microeconomic-theory-i-fall-2015/ea9f11b15ace05e7bfd31d58ae48beb9_MIT14_121F15_2S.pdf
通常の買い物では所得効果が加わる
通常需要の交差価格反応は所得効果があるため対称とは限らない。
- 対象
- 効用固定の交差価格微分の対称性と、所得固定では非対称になりうる点を単位で説明する。
- 条件
- 価格正、補償需要一意で価格について連続微分可能、同一人・同一効用水準・同じ数量/価格単位。
- 例外・限界
- 対称なのは数量の価格微分で、弾力性や通常需要ではない。複数最適解・折れ点へ延長しない。
Consumer Theory — MIT 14.121 (2015)(MIT OpenCourseWare / Alexander Wolitzky)https://ocw.mit.edu/courses/14-121-microeconomic-theory-i-fall-2015/ea9f11b15ace05e7bfd31d58ae48beb9_MIT14_121F15_2S.pdf