経済の基礎
取引先専用の設備を造ると、後の値下げ要求が心配になるのはなぜ?
取引相手との関係を続けるときだけ価値が高い設備は、造った後に別の用途へ移しにくくなります。その段階で価格や取り分を交渉し直せると、投資した側が利益を十分に受け取れない心配が生じます。後の交渉を予想して、最初から投資を小さくする問題がホールドアップです。
基本の用語
投資前の約束と、設備を造った後の選択肢を分けます。企業と労働者の投資・交渉模型を、二者の専用設備取引にも置いた架空の説明です。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 払ったお金がもったいなくても、やめた方がよい?取り戻せない過去の支出は、続けてもやめても変わらない。
- 仕事を任せると、なぜ監督が必要になる?利害の違いと、契約で保証できない行動に注目する。
先に投資すると、代わりの相手を探しにくくなる
専用設備がある取引で160万円の価値を生むとしても、ほかの取引では20万円の価値しか生まないなら、その差は関係を続けることに依存します。設備を造る前なら相手を探したり投資をやめたりできますが、造った後は、その投資額を取り戻せる選択肢が狭くなります。
相手がその事情を知っていると、投資後に支払額を下げる交渉が起こりえます。投資者は不利な提示でも、関係を終えるよりはよいとして受け入れる場合があります。この段階の選択には、過去の投資額と、今から選べる代替案を分ける必要があります。ただし、取引先が実際に必ず値下げを要求するという予測ではありません。
投資後の交渉が、投資前の判断へ響く
問題は、投資後の不利な交渉だけで終わりません。投資前にもその可能性を予想するため、共同では利益を生む設備なのに、費用を負担する側にとっては採算が合わず、投資を控える場合があります。事後の合理的な選択が、事前の投資の誘因を弱めるという関係です。
拘束的な契約を結べない投資・交渉の模型では、投資者が追加便益の一部しか受け取れないため、私的に選ぶ投資が二者全体で望ましい量を下回りえます。逆に、自分が追加便益を十分に受け取れる条件なら、同じ問題にはなりません。単に設備が高価であることではなく、投資後の取り分と代替用途が論点になります。
値下げの要求がない場合でも、後の取り分が不確実なら投資前の判断に関わります。二者が将来の交渉について異なる見込みを持てば、共同の価値が大きいと考えていても、費用をどちらが負担するか合意しにくくなります。ここでいう投資不足は、投資者を非合理的だと評価する言葉ではありません。費用を払う前に、実際に自分へ戻ると見込む便益を比べた結果です。共同で作れる価値の額と、その価値を誰が受け取れるかを分けると、問題の場所が見えます。
約束や所有を変えても、別の費用は残る
一つの方法は、投資前に価格や取引条件を拘束できる約束を置くことです。投資後に取り分を変えられなければ、当初の費用と便益を基に投資を選びやすくなります。ただし、将来の品質や仕様をすべて書けるとは限らず、約束を確認し実行する費用も必要です。
同じ会社の中へ工程を含める統合も、比較する方法の一つです。一方で、管理の負担、他社へ切り替える柔軟性、外部の競争が与える誘因などを失う費用もあります。専用投資があるなら必ず合併すべきという結論にはなりません。どの約束が実行でき、所有や指示の範囲を変えると何が改善するかを比べます。
- 投資前
100万円の費用と、将来受け取れる支払額を比較
- 投資後
投資費100万円は支払い済みで、支払80万円と別用途20万円を比較
- 事前への影響
後の支払80万円を予想すると、投資費100万円に届かない
投資後に80万円を受け入れることと、投資前に設備を造ることは別の判断です。
架空の設備で、投資前と投資後を比べる
設備費100万円で、取引先が使うと160万円の便益を生み、別用途へ売れば20万円だけ戻るとします。支払額120万円を守れる約束なら、投資者は20万円、相手は40万円の利益を得る設定です。
設備を造った後で相手が80万円だけ払うと提示すると、投資者には別用途の20万円より80万円の方がよくても、設備費との差はマイナス20万円です。これを最初から予想すれば投資をやめるかもしれません。共同の便益160−100=60万円があっても、取り分の約束が投資に関わることを示しています。
持ち帰る見方
- 専用投資の後に残る代替案と、取り分を変えられる条件を確認する。
- 事後の交渉を予想した事前の投資不足を、過去費用の判断と分ける。
次に広がる疑問
- 所有をまとめることと、契約を工夫することでは何の費用が違うだろう?
順番に読んでいる方へ
企業と社会の利害・14 / 20
出典
Lectures 8–10: Investments in General and Specific Skills, MIT 14.661 Fall 2017(Daron Acemoglu/MIT OpenCourseWare)https://ocw.mit.edu/courses/14-661-labor-economics-i-fall-2017/8e7d865dc9fe78e40fc0556520619a95_MIT14_661F17_lec8_10.pdf
確認日:2026-10-04
Transfer Pricing and Vertical Integration, MIT 15.010 Fall 2004(MIT OpenCourseWare/15.010 course staff)https://ocw.mit.edu/courses/15-010-economic-analysis-for-business-decisions-fall-2004/4678c1744e47662b9b0c358f82760c5e_trans_vert_int.pdf
確認日:2026-10-04
本文の出典・補足
先に投資すると、代わりの相手を探しにくくなる
投資の後に取り分を交渉し直せる二者関係では、投資者が追加便益を全額受け取れないことがある。
- 対象
- PDF pp.5–12 Investments without Binding Contracts、p.12 Holdup problem
- 条件
- 事前に取り分を拘束できず、投資後に二者で利得を交渉。外部選択肢を固定する。
- 例外・限界
- 講義の具体主体は企業と労働者。記事の設備供給取引は同じ事前投資・事後交渉構造の架空説明。契約・統合が常に最善とはしない。
Lectures 8–10: Investments in General and Specific Skills, MIT 14.661 Fall 2017(Daron Acemoglu/MIT OpenCourseWare)https://ocw.mit.edu/courses/14-661-labor-economics-i-fall-2017/8e7d865dc9fe78e40fc0556520619a95_MIT14_661F17_lec8_10.pdf
投資後の交渉が、投資前の判断へ響く
拘束的契約なしの投資・事後交渉模型では、私的に選ぶ投資が共同の効率的投資より小さくなりうる。
- 対象
- PDF pp.5–12 Investments without Binding Contracts、p.12 Holdup problem
- 条件
- 事前に取り分を拘束できず、投資後に二者で利得を交渉。外部選択肢を固定する。
- 例外・限界
- 講義の具体主体は企業と労働者。記事の設備供給取引は同じ事前投資・事後交渉構造の架空説明。契約・統合が常に最善とはしない。
Lectures 8–10: Investments in General and Specific Skills, MIT 14.661 Fall 2017(Daron Acemoglu/MIT OpenCourseWare)https://ocw.mit.edu/courses/14-661-labor-economics-i-fall-2017/8e7d865dc9fe78e40fc0556520619a95_MIT14_661F17_lec8_10.pdf
約束や所有を変えても、別の費用は残る
投資前の拘束的契約はこのホールドアップを弱めうるが、契約や統合の費用・柔軟性も比較する必要がある。
- 対象
- PDF pp.14–16 Divisional Profits and Evaluation / Double Marginalization / Back to Example、pp.20–22 Reasons・Costs・Take Away Points
- 条件
- 前後工程が個別に利益最大化し、下流への引渡価格を費用として扱う。市場支配力と線形需要の架空例。
- 例外・限界
- 講義の数値例に173.7/173.1等の印字不整合があるため転載不採用。独自例で再計算。統合の競争影響や費用は別。
Transfer Pricing and Vertical Integration, MIT 15.010 Fall 2004(MIT OpenCourseWare/15.010 course staff)https://ocw.mit.edu/courses/15-010-economic-analysis-for-business-decisions-fall-2004/4678c1744e47662b9b0c358f82760c5e_trans_vert_int.pdf