経済の基礎
部品を他社から買う会社と、自社で作る会社は何が違う?
他社から買うか自社で作るかは、部品の値段だけでなく、取引先を探し、契約し、品質や納期を確認する費用にもよります。自社なら調整しやすくなる部分がある一方、設備や人員を管理する費用もかかります。分業の方法と、どこまでを一つの会社に含めるかを分けて考えます。
基本の用語
垂直統合は、材料、部品、製造、販売など前後につながる工程を同じ企業の中へ含めることです。内製と外部調達の費用を比較します。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 分業すると効率が上がる一方、何に依存する?専門化には習熟・得意分野・規模の利点がありうる。
- 仕事を任せると、なぜ監督が必要になる?利害の違いと、契約で保証できない行動に注目する。
買値以外にも、取引する費用がある
部品を買うには、その部品を作る費用だけでなく、どの会社から買うかを調べ、何をいつ渡すかを合意する必要があります。品質を検査したり、契約をめぐる争いを処理したりする負担も考えられます。こうした取引を成立させ実行する費用を、取引費用と呼びます。
経済学者ロナルド・コースは、市場の価格を使うことにも費用があるため、企業内の指示による調整が有利となる場合を説明しました。他社から安く買えるという情報だけでは、探索、交渉、契約、確認に何が必要かまで含めた比較にはなっていません。
反対に、他社が専門化して効率よく作れるなら、その利点を購入で利用する案があります。取引費用を考えるのは市場を否定するためではなく、どこにどんな費用があるかを省かずに比較するためです。部品の価格だけを企業の範囲を決める唯一の基準にしません。
自社で作る場合にも管理の費用がかかる
自社で作るなら、毎回外部と取引する代わりに、社内で仕事を割り当て調整できます。しかし、誰が何をするかを決め、情報を集め、作業を確かめる負担は残ります。組織内の調整も無料で完全というわけではありません。
この理論では、企業内の調整費用が市場取引等より小さくなる範囲で、仕事を企業内へ含める利点を考えます。すべての部品を自社で作ることが最善とは言いません。ある工程は内製、別の工程は他社から購入という組合せも、比較する案になります。
どの案がよいかは、何の作業をどの条件で調整するかによります。同じ会社の違う工程でも条件は異なりえます。企業が大きい、調達先が多いという数字だけから、統合すれば必ず効率が上がるとも、外注なら必ず安いとも結論できません。
仕事の分け方と、会社の境界は別
分業は仕事を分けることです。前後の工程を同じ会社に含めても、担当者や部署で分けられます。別会社へ任せる場合も分業です。仕事の分け方と、所有や指示の範囲である会社の境界は、同じ問いではありません。
企業内では仕事の指示や継続的な関係があり、そこで特に役立つ知識や技能が蓄積するという教材の説明があります。一方で、任せた人の行動をすべて知れるとは限らず、利害や情報の違いも残ります。工程を社内へ移せば監督が不要になる、とは言えません。
企業の統合に関するニュースでは、何の工程を含め、どんな外部取引を変えるかを読んでから、期待される費用節約と実際の結果を分けます。ここで説明した理論だけでは、特定企業の動機や節約額は測れません。市場と社内それぞれの調整を具体的に比べる視点になります。
部品の買値と、調達全体の費用を比べる
架空の会社が一か月分の部品を用意します。他社から買う案は部品代80万円と、調達・検査などの費用20万円で計100万円。自社で作る案は製造90万円と社内管理15万円で計105万円と設定します。同じ数量・品質・納期を満たすなら、この設定では外部調達の方が安い案です。
調達・検査の費用だけが30万円へ変われば、外部調達は110万円となり比較が変わります。実際の工場の費用ではなく、買値と製造費だけを見て結論しない練習です。設備投資や品質差がある場合には、それも比較条件へ加える必要があります。
持ち帰る見方
- 外部調達には、購入価格以外の取引費用もある。
- 内製にも組織内の調整と監督の費用がある。
- 分業することと、同じ会社に含めることを区別する。
次に広がる疑問
- 技能が使える範囲と訓練の負担を考える
- 調達の時間差を在庫で補う条件を読む
順番に読んでいる方へ
出典
The Institutional Structure of Production — Prize Lecture, 9 December 1991(Ronald H. Coase/NobelPrize.org)https://www.nobelprize.org/prizes/economic-sciences/1991/coase/lecture/
確認日:2026-10-04
The Economy 1.0, Unit 6: The firm: Owners, managers, and employees(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy-v1/book/text/06.html
確認日:2026-10-04
本文の出典・補足
買値以外にも、取引する費用がある
市場から購入するには価格探索、交渉、契約、検査、紛争処理などの取引費用があり、購入価格だけが費用ではない。
- 対象
- Coase1991 “I found the answer”
- 条件
- 取引費用を含めて調達方法を比べる理論
- 例外・限界
- 費用の額・企業の実際の統合動機は測定していない
The Institutional Structure of Production — Prize Lecture, 9 December 1991(Ronald H. Coase/NobelPrize.org)https://www.nobelprize.org/prizes/economic-sciences/1991/coase/lecture/
自社で作る場合にも管理の費用がかかる
組織内調整にも費用と不完全さがあり、市場取引より低い調整費用で実行できる範囲で企業内生産が有利になるという理論がある。
- 対象
- Coase1991 optimum of planning
- 条件
- 市場と組織の代替的調整費用を比較
- 例外・限界
- すべて内製すべき、企業が大きいほど有利とはしない
The Institutional Structure of Production — Prize Lecture, 9 December 1991(Ronald H. Coase/NobelPrize.org)https://www.nobelprize.org/prizes/economic-sciences/1991/coase/lecture/
仕事の分け方と、会社の境界は別
企業内の仕事の配分は市場の売買とは異なり指示関係を含み、関係特殊的な知識・技能や監督の問題が残る。
- 対象
- CORE §6.1 firms/contracts/firm-specific assets
- 条件
- 企業内外で工程を分業できる教材の区別
- 例外・限界
- 内部化で情報差が消えるとはせず、日本法の労働者判断と混同しない
The Economy 1.0, Unit 6: The firm: Owners, managers, and employees(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy-v1/book/text/06.html