経済の基礎
売れ残りをなくすため、在庫をゼロにすればよい?
在庫には売れ残りだけでなく、補充までの時間差や、需要・納期の変動へ備える役割があります。少なくすれば保管費や劣化の負担を減らせますが、欠品への対応費も考える必要があります。ゼロを目標にする前に、何をいつ使い、いつ補充できるかを比べます。
基本の用語
在庫は、事業が販売や次の工程のために持つ物です。店の完成品だけでなく、工場の原材料や作りかけにも在庫があります。用途と置く場所を分けると、必要性を考えやすくなります。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 需要が増えても、すぐには増産できないのはなぜ?需要の増加と、増産できる能力を分ける。
- 分業すると効率が上がる一方、何に依存する?専門化には習熟・得意分野・規模の利点がありうる。
売れ残りだけでなく時間差への備えがある
店が商品を補充する間隔と、お客が買う時点は必ず同じとは限りません。工場でも、材料が届く時点と使う時点の間に時間差があります。MITの供給管理の教材は、補充の周期、輸送中の物、前後の工程を切り離して動かすための備えなど、在庫の役割を分類しています。需要が増える時期に生産が追い付かない場合、前もって作っておく在庫という役割もあります。
安全在庫は、需要、納期、生産から得られる量の不確実さに備えるものです。見込みより多く売れたり、補充が遅れたりしたときに、一定の手持ちがあれば対応できる場合があります。売れなかった物が残ることと、予定して備えることを一つにまとめません。
ただし在庫があればどんな途絶も防げるわけではありません。備えが何日分で、どこにあり、止まった工程に使えるかが関わります。工場全体の在庫数だけを見ても、足りない材料の代わりになるかまでは分かりません。
保管費と欠品したときの費用を比べる
在庫を持てば、物へ資金を使い、保管場所や取り扱いの費用を負担します。古くなって需要に合わなくなる、破損や盗難が起きるといった危険もあります。同じ数量でも、長く保管できる部品と傷みやすい商品では、比べる負担が違います。
持たない場合にも費用がありえます。教材は、急ぎの輸送、顧客への対応、信用を失うことなどを欠品費用として挙げます。保管費を減らした分以上に急ぎの調達が増えるなら、保管費だけの比較では全体の負担を見落とします。
欠品の損失は、すべてを同じ金額で見積もれるとは限りません。発注に必要な費用、保管する費用、足りないときの影響を分け、どの条件なら対応できるかを比べます。在庫を多く持つことも、少なく持つことも、それだけで最善の証明にはなりません。
在庫ゼロで発注できる前提を確かめる
教材の基本的な発注模型は、需要が一定で、発注すれば即座に補充できるという条件を置きます。この場合は手持ちがゼロになってから発注でき、変動に備える安全在庫の便益はありません。条件を省けば、ゼロで発注できる理由が消えてしまいます。
この模型も、一度にまとまった量を発注して順に使うため、いつも手持ちをゼロにしているという意味ではありません。「発注する時点でゼロ」と「期間中の在庫がゼロ」を分けます。発注間隔と数量を決める問いも残っています。
現実の判断では、納品までの時間や需要の変動を無視できるかを確認します。同じ保管費でも、翌日に確実に届く場合と、数日かかり到着がずれる場合では備えの役割が違います。費用節約の説明と、その説明が成り立つ補充条件を一緒に読みます。
- 在庫を持つ
資金・保管・取り扱いの費用、陳腐化や破損等の危険。
- 必要なときに足りない
急ぎの輸送や顧客対応、信用への影響。補充条件によって違う。
二種類の負担を比較します。どちらが大きいかは、商品の性質・納期・需要の変動等によります。
備えで対応できる遅れと、保管費を比べる
架空の工場が一日に部品を10個使い、補充が1日遅れる場合を考えます。使える同じ部品を10個、予備として持つ案なら、その1日分を賄えます。予備を持たない案では、その日の不足へ別の調達や作業の調整が必要になると設定します。
予備を持つ案にも場所や資金の負担があり、遅れが2日なら10個では足りません。これは備えの量と対応できる時間を比べる例で、実際の遅延確率や最適な在庫量を測ったものではありません。
持ち帰る見方
- 在庫には補充の時間差と不確実さを埋める役割がある。
- 保管する費用と、欠品した場合の費用を比べる。
- ゼロで発注できる模型の需要・納期の条件を省かない。
次に広がる疑問
- 工程が止まったときに何へ依存するかを見る
- 部品の購入と社内生産の調整費用を比べる
順番に読んでいる方へ
出典
15.772J D-Lab: Supply Chains, Lecture 13: Deterministic-demand Inventory Models(Stephen C. Graves/MIT OpenCourseWare (Fall 2014; slides ©2013))https://ocw.mit.edu/courses/15-772j-d-lab-supply-chains-fall-2014/b0b41cc09a83ffa4cf1335ac65f5f9ab_MIT15_772JF14_Lec13.pdf
確認日:2026-10-04
本文の出典・補足
売れ残りだけでなく時間差への備えがある
在庫は発注・補充の間隔や納品までの時間差を埋める役割があり、安全在庫は需要・納期・生産収量の不確実さや供給途絶への備えとなる。
- 対象
- Graves MIT Lecture 13, slides 4–12 Roles of Inventory
- 条件
- 需要・補充・納期等を区別した運営上の分類
- 例外・限界
- 在庫があるだけで供給途絶の損失を完全に防ぐとしない。原材料・仕掛品・完成品にも在庫がある
15.772J D-Lab: Supply Chains, Lecture 13: Deterministic-demand Inventory Models(Stephen C. Graves/MIT OpenCourseWare (Fall 2014; slides ©2013))https://ocw.mit.edu/courses/15-772j-d-lab-supply-chains-fall-2014/b0b41cc09a83ffa4cf1335ac65f5f9ab_MIT15_772JF14_Lec13.pdf
保管費と欠品したときの費用を比べる
在庫を持つ費用には資金・保管・取り扱い・陳腐化や破損等があり、持たない場合にも追加輸送・顧客対応・信用喪失などの欠品費用がありうる。
- 対象
- Graves MIT Lecture 13, slides 13–14 Costs of holding inventory / Inventory related costs
- 条件
- 業務・商品の性質ごとに費用を比べる説明
- 例外・限界
- すべての会社で同じ費用・損失額になるとはしない。本文にない実測額を例へ混ぜない
15.772J D-Lab: Supply Chains, Lecture 13: Deterministic-demand Inventory Models(Stephen C. Graves/MIT OpenCourseWare (Fall 2014; slides ©2013))https://ocw.mit.edu/courses/15-772j-d-lab-supply-chains-fall-2014/b0b41cc09a83ffa4cf1335ac65f5f9ab_MIT15_772JF14_Lec13.pdf
在庫ゼロで発注できる前提を確かめる
需要が一定で納期がゼロという限定模型では在庫がゼロになったときに発注でき、安全在庫の便益がない。しかし現実の納期や需要の変動を除いてよいとは限らない。
- 対象
- Graves MIT Lecture 13, slides 16–22 EOQ assumptions / Key Observations
- 条件
- 需要一定・即時補充・全需要充足等のEOQ模型
- 例外・限界
- 模型の条件を保持。在庫ゼロの維持があらゆる企業で最適とはしない
15.772J D-Lab: Supply Chains, Lecture 13: Deterministic-demand Inventory Models(Stephen C. Graves/MIT OpenCourseWare (Fall 2014; slides ©2013))https://ocw.mit.edu/courses/15-772j-d-lab-supply-chains-fall-2014/b0b41cc09a83ffa4cf1335ac65f5f9ab_MIT15_772JF14_Lec13.pdf