国際関係
特許権者の同意なしに、薬などの発明を使えることがある?
国内法が認める場合には、特許権者の同意なしに発明を使う強制実施などを、TRIPS協定の条件に従って認めることがあります。緊急事態だけに限る制度ではなく、事前の許諾交渉、目的に限った範囲・期間、報酬、独立した審査などの条件を読みます。
基本の用語
特許権をなくすことと、権利者の同意のない一定の使用を認めることは違います。TRIPSは知的財産に関するWTO協定で、ここでは第31条の通常の使用と医薬品輸出の特例を分けます。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 発明をまねすることを一定期間制限するのはなぜ?発明の保護・公開・期間と、開発誘因と普及の関係を読む。
同意のない使用にも条件がある
第31条は、国内法が認める政府又は政府に認められた第三者の同意なき使用について条件を置きます。個々の事情で認可し、範囲と期間を認めた目的に限定します。特許があるのに利用できる場合があることと、あらゆる人が自由に利用できることは同じではありません。
使用は非排他的で、権利者にも権利が残ります。認可された者だけへ利用を独占させるのではなく、特許権自体を破棄する仕組みとも違います。権利者へは、個別事情と認可の経済的価値を考慮した適切な報酬を払う必要があります。
医薬品以外の技術にも制度が関係しますが、半導体技術等には追加条件があります。具体的に何の発明を誰がどの目的で使えるかは、その国の法令と認可を読む必要があります。国際協定が余地を認めることだけで、個別の使用許可が出たことにはなりません。
緊急事態は事前交渉の例外である
原則として、使用を希望する者は合理的な商業条件で権利者の自主的な許諾を得ようと努力し、合理的な期間内に成功しなかったことが必要です。特許権者へ連絡せず使いたいという希望だけで、この原則を省略できるわけではありません。
国家緊急事態、極度の緊急事態、公的な非商業的使用では、この事前交渉の要件を免除できます。緊急事態なら権利者への可能な限り速やかな通知等も読みます。反競争的な慣行の是正にも、別の条件で事前交渉等の例外があります。
WTOの説明は、強制実施が緊急事態に限られるという理解は誤りだと示します。緊急事態は主として事前交渉を省ける理由であり、報酬も何も不要になる理由ではありません。「緊急事態を宣言した」と「使用を認可した」を別に追います。
報酬と審査、輸出の特別制度を読む
使用認可の法的有効性と報酬の決定には、裁判又は独立した上級機関による審査を受ける仕組みがあります。権利者の同意を要しない制度でも、認可や額の決定について確かめる条件が残ります。
通常の第31条では、主として認可国の国内市場へ供給する使用を定めます。一方、反競争慣行の是正にはその条件の例外があり、医薬品を製造できない国等への供給に向けた特別な輸出制度も別にあります。通常制度と特例を同じ条件として説明しません。
WTOのFAQは、医薬品輸出の特別制度も、実際に使うためには国の法令や認可等の措置が必要だと説明します。法的な経路があることと、薬の製造や輸出、患者への供給がすでに実現したことは別です。
報道では、対象特許、国内法の根拠、目的、事前交渉又はその例外、使用の範囲と期間、報酬、審査、国内供給か特別輸出かを確認します。制度上認められた余地から、価格が必ず何割下がるなどの効果は推測しません。
緊急時でも認可の内容を読む
架空のA国が、緊急時の医薬品供給のため、権利者の同意なしの一定の使用を認めたとします。事前交渉要件を免除できる場合でも、認可の対象、目的に限定した範囲や期間、報酬などの確認は必要です。
別の国へ主として輸出する計画なら、通常の国内供給の説明をそのまま使わず、特別制度と条件を読みます。例は実在薬の認可や供給の効果を示すものではありません。
持ち帰る見方
- 同意のない使用の認可と特許権の消滅は別。
- 緊急事態は事前交渉を免除する理由で、制度の唯一の理由ではない。
- 報酬・審査・国内供給と特別輸出の条件を読む。
次に広がる疑問
- 発明をまねすることを一定期間制限するのはなぜ?
- WTOは、貿易の争いをどう扱う?
- 感染症でWHOが緊急事態を宣言すると、各国に同じ対策が義務になる?
出典
TRIPS Agreement Part II Section 5: Patents(World Trade Organization)https://www.wto.org/english/docs_e/legal_e/27-trips_04c_e.htm
確認日:2026-10-05
Compulsory licensing of pharmaceuticals and TRIPS(WTO FAQ)(World Trade Organization)https://www.wto.org/english/tratop_e/trips_e/public_health_faq_e.htm
確認日:2026-10-05
本文の出典・補足
同意のない使用にも条件がある
TRIPS第31条は国内法が認める特許権者の同意なき使用について、個別事情での認可、目的に限定した範囲・期間、非排他的使用、適切な報酬等を定める。
- 対象
- TRIPS第31条の通常の同意なき使用。
- 条件
- 政府又は政府が認める第三者の使用。特許権自体を消す制度でない。
- 例外・限界
- 半導体技術等には追加条件がある。国別の認可と実施法を読む。
TRIPS Agreement Part II Section 5: Patents(World Trade Organization)https://www.wto.org/english/docs_e/legal_e/27-trips_04c_e.htm
Compulsory licensing of pharmaceuticals and TRIPS(WTO FAQ)(World Trade Organization)https://www.wto.org/english/tratop_e/trips_e/public_health_faq_e.htm
緊急事態は事前交渉の例外である
原則として合理的な商業条件で自主的な許諾を得る努力が合理的期間内に成功しなかったことを要するが、国家緊急事態、極度の緊急事態、公的な非商業的使用では事前交渉要件を免除できる。
- 対象
- TRIPS第31条の通常の同意なき使用。
- 条件
- 緊急事態では可能な限り速やかな権利者通知等も必要。
- 例外・限界
- 強制実施は緊急事態に限られず、免除が報酬を不要にするわけでもない。反競争慣行の是正には別の例外。
TRIPS Agreement Part II Section 5: Patents(World Trade Organization)https://www.wto.org/english/docs_e/legal_e/27-trips_04c_e.htm
Compulsory licensing of pharmaceuticals and TRIPS(WTO FAQ)(World Trade Organization)https://www.wto.org/english/tratop_e/trips_e/public_health_faq_e.htm
報酬と審査、輸出の特別制度を読む
使用認可と報酬決定には裁判等の独立した上級機関による審査が必要である。通常の使用は主として国内市場供給向けだが、医薬品を製造できない国等へ輸出する特別制度が別にある。
- 対象
- TRIPS第31条の通常の同意なき使用。
- 条件
- 通常の第31条と医薬品輸出特別制度を分ける。
- 例外・限界
- 反競争慣行の是正は国内供給条件等の例外。特別輸出制度は参加・通知・国内措置の条件がある。
TRIPS Agreement Part II Section 5: Patents(World Trade Organization)https://www.wto.org/english/docs_e/legal_e/27-trips_04c_e.htm
Compulsory licensing of pharmaceuticals and TRIPS(WTO FAQ)(World Trade Organization)https://www.wto.org/english/tratop_e/trips_e/public_health_faq_e.htm