数字と報道
同じ研究をやり直したら、同じ数字になるはず?
同じ資料を同じ手順で計算し直すことと、新しい資料で同じ問いを確かめることは違います。新しい標本の数字は揺れるため、完全一致だけを求めず、効果の大きさ、不確かさ、対象や手順の違いを比較します。
基本の用語
一つの推定値には、標本や測定による不確かさがあります。同じ問いを調べても、観測した人や時期が違えば同じ数値になるとは限りません。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 「統計的に有意」なら、効果は大きく確実に役立つ?p値の条件、有意性と効果量・重要性の違い、非有意の読み方を理解する。
同じ資料を再計算する
このページでは、米国National Academiesの2019年報告の区別を使います。同じデータと計算手順などから整合する結果を得るのが計算の再現性、新しいデータを集めて同じ科学的問いの結果を確かめるのが追試です。用語の使い方は分野によって異なるので、実際に何をやり直したかを読みます。
計算をやり直すには、入力データだけでなく、処理の手順、使った条件、必要な計算環境も関わります。データや手順の公開を確認したことと、実際に計算して同じ結果を得たことも別です。
新しい資料で確かめる
新しい人を調べる追試では、標本が入れ替わり、観測値が変わります。厳密に同じ数値にならないこと自体は、元の結果が誤っていた証拠ではありません。元の研究と追試が、同じ結果の定義と比較を使っているかを先に見ます。
効果の向きだけでなく、推定された大きさと不確かさを比べます。両方とも有意だったかという二択だけでは、かなり違う効果を同じと判断したり、近い推定値を違うと判断したりしかねません。追試で何を一致とみなすかにも説明が必要です。
一致は正しさの保証ではない
同じデータとコードで完全に同じ数字を得ても、元の処理の誤りが直ったわけではありません。誤った計算を同じように実行すれば、同じ誤った答えも再現できます。計算結果の一致と、計算方法の正しさは、異なる点検です。
例えば対象の除外条件が問いに合っているか、単位を取り違えていないかなどは、結果の一致だけから分かりません。再現できる手順があると、その内容をほかの人が具体的に調べやすくなりますが、それが無誤謬の保証になるわけではありません。
一度の失敗を読み過ぎない
追試の成功も、元の主張を完全に保証するものではありません。一度の失敗も決定的な反証とは限りません。標本のばらつき、測定の限界、制御できなかった条件、手順の問題など、差が生じた理由を調べます。
追試が同じ地域・同じ対象で行われたのか、別の条件へ移した研究なのかも重要です。結果が違うなら、単に成功と失敗の票を数えず、どの条件でどの大きさの効果が得られるという説明へ進みます。失敗したという一語から、不正まで断定しません。
数字の差を検討するときは、「同じ問いを違う資料で確かめた」のか、「支援の内容まで変えた」のかを分けます。後者の結果が違えば、元の条件での結論に加えて、どの条件で結果が変わるかを考える材料になります。
報告の見出しが再現した、再現しなかったという二択でも、本文には具体的な比較の尺度を探します。推定値の大きさ、ばらつき、手順の対応が示されていなければ、何をもってそう判定したのかが次の確認になります。
架空の例:同じ計算と新しい調査
最初の調査では、ある施策の推定差が5ポイントでした。同じデータを再計算して5ポイントになったなら、確認したのはその計算の再現です。別の100人を調べて推定差が4ポイントになったなら、新しいデータによる確認です。
5と4が異なるという事実だけでは、結果が食い違うと判定できません。それぞれの不確かさと対象・方法を見ます。一方、同じデータの再計算が4になったなら、入力や処理の違いを具体的に調べる必要があります。
持ち帰る見方
- 同じ資料の再計算か、新しい資料の追試かを読む。
- 完全一致や有意性の二択だけで追試を判定しない。
- 結果の違いを、対象・方法・不確かさから調べる。
次に広がる疑問
- 同じデータの再計算か、新しいデータの追試か。
- 一致の判定は、どの効果と不確かさに基づくか。
順番に読んでいる方へ
出典
Reproducibility and Replicability in Science — Summary(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)https://nap.nationalacademies.org/read/25303/chapter/3
確認日:2026-10-05
本文の出典・補足
同じ資料を再計算する
本記事で採るNational Academiesの定義では、reproducibilityは同じデータ・計算方法等で整合する結果を得ること、replicabilityは新しいデータで同じ科学的問いについて整合する結果を得ることである。
- 対象
- 2019年報告の定義。
- 条件
- 同じ資料か新しい資料かを明示する。
- 例外・限界
- 日本語訳や用語の使い分けは分野によって異なる。
Reproducibility and Replicability in Science — Summary(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)https://nap.nationalacademies.org/read/25303/chapter/3
新しい資料で確かめる
新しい標本を集めた追試では観測値も変わるため、成功を数字の完全一致だけで判定しない。効果の大きさ・分布・不確かさと研究条件を比較する。
- 対象
- 新しいデータによる追試。
- 条件
- 元と追試の問い、対象、手順を対応させる。
- 例外・限界
- 両方で有意になったかという二択だけの基準も不十分。
Reproducibility and Replicability in Science — Summary(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)https://nap.nationalacademies.org/read/25303/chapter/3
一致は正しさの保証ではない
同じ計算結果を再現できても、元のコードの誤りを同じように繰り返している可能性があり、計算の正しさを保証しない。
- 対象
- 計算再現性と正確性。
- 条件
- 同じ誤った計算も再現可能である。
- 例外・限界
- 再計算の一致と方法の妥当性を別に点検する。
Reproducibility and Replicability in Science — Summary(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)https://nap.nationalacademies.org/read/25303/chapter/3
一度の失敗を読み過ぎない
追試の成功は元の主張を完全に保証せず、一度の失敗も決定的な反証とは限らない。固有のばらつき、制御の難しさ、手順の問題などを検討する。
- 対象
- 単一追試の解釈。
- 条件
- 差の大きさと不確かさ、条件の変化を調べる。
- 例外・限界
- 失敗だけから不正を断定しない。
Reproducibility and Replicability in Science — Summary(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)https://nap.nationalacademies.org/read/25303/chapter/3