経済の基礎
同じ商品でも、店によって値段が違うのはなぜ?
同じ商品でも、買い手が全店の価格をすぐ知れるとは限りません。安い店を探す時間や手間がかかると、売り手は値上げしただけで全ての客を失うとは限らなくなります。ただし、探索費用があるだけで、必ず店ごとの価格差が生まれるわけでもありません。
基本の用語
ここでは品質やサービスの違いをそろえた商品を考えます。価格を知るための訪問や比較の負担を、探索費用と呼びます。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 無料でも費用があるとはどういうこと?代金がゼロでも、時間や資源の別の使い道は失われる。
価格を比較するにも、時間と手間がかかる
一個の価格が安い店を見つけても、そこまで行く時間が長ければ、買い手は近くの店を選ぶかもしれません。まだ訪れていない店がもっと安いかも分からないなら、比較を続けることにも不確実さがあります。商品代金だけでなく、価格情報を集める費用と、移動する負担を合わせて考える必要があります。
追加で一店を調べる判断では、安い商品を見つけて節約できそうな額と、調べる時間などの負担を比べます。節約額は、調べる前には確定していません。見つかる価格の見込みや、自分の時間をどう評価するかによって、調べ続けるか、今の店で買うかが変わります。
情報の非対称性の記事では、買い手が品質を見分けられない場合を扱いました。ここでは品質が同じでも、どの店がどの価格かを知らない問題に注目します。高い商品が必ず高品質という推測をするのではなく、価格を比較できる範囲がどこまでかを確かめます。
売り手も、買い手の探し方に反応する
全店の価格が分かり、安い店へ負担なく移れる条件なら、一店が少し値上げしただけで買い手が他店へ移るという競争を考えられます。ところが次の店の価格を知るために費用がかかるなら、今の店が少し高くても、買い手が移らない余地があります。店の価格設定にも、この比較のしにくさが関わります。
売り手は、自分の価格だけを見ているとは限りません。他店がどれほど高いか、客がどれほど比較するかにも反応します。ある店が高くても客が残るなら、ほかの店にも価格を高くする誘因が生じえます。探索費用の影響は、一人が使う時間だけでなく、売り手同士の反応を通じて広がることがあります。
この仕組みは、高い店がすべて不当な取引をしているという法的判断ではありません。比較方法や商品の条件が違えば、価格差にはほかの理由もあります。価格設定力の模型を、特定の店の利益率や違法行為の認定へ直接置き換えることはできません。
同じ価格になる模型と、違う価格が残る模型
Diamondが示した極端な模型では、同じ買い手と売り手が、店を無作為に訪問し、次の店を調べる費用を負担します。その条件では、全店が同じ独占価格を付ける均衡が出ます。探索があるなら必ず価格がばらつく、という模型ではない点が大切です。
買い手の需要、売り手の費用、価格を知る方法などの条件を豊かにした別の模型では、同じ商品の価格が店ごとに違う状態も生じます。調べやすい人と調べにくい人がいることなど、どの違いを置いた説明かを確認します。「探索費用が少しある」だけで現実の値段を一つに決めることはできません。
価格を比べるときは、商品、数量、送料、受取方法など、何をそろえた比較かを先に確かめます。そのうえで、表示される店の範囲や、比較の負担も見ます。安い価格の一覧を見たことと、利用可能な全店を同じ条件で比べたことは別です。どこまで探せたかを意識すると、価格差を読める範囲が明確になります。
もう一店を調べるか
架空の例として、同じ商品が近所の店で1,000円、別の店で900円と分かったとします。別の店へ行く追加の時間・交通費を本人が150円分の負担と評価するなら、100円の価格差だけでは移る理由になりません。
まだ価格を知らない店を調べる場合は、100円節約できる保証もありません。これは比較の負担を置いた説明用の例で、現実の人の時間の価値や、店ごとの価格分布を推計したものではありません。
持ち帰る見方
- 同じ品質でも、価格情報を得る費用がある。
- 買い手の探索に売り手の価格設定も反応する。
- 価格分散を生む条件と、全店同価格の模型を分ける。
次に広がる疑問
- 商品の違いがある場合の価格を読む
- 品質を見分けられない問題と比べる
順番に読んでいる方へ
出典
Unemployment, Vacancies, Wages — Nobel Lecture manuscript (2011-02-01)(Peter A. Diamond/MIT Economics(著者原稿))https://economics.mit.edu/research/publications/unemployment-vacancies-wages
確認日:2026-10-04
本文の出典・補足
価格を比較するにも、時間と手間がかかる
価格情報を得るための費用があれば、同じ商品でも買い手は即座に最安値店へ移るとは限らず、最初の店が価格を設定する余地を持ちうる。
- 対象
- 同質商品市場で買い手の価格探索費用と売り手の価格設定を考える模型。
- 条件
- 同質商品でも店ごとの価格を知るには訪問等の費用があり、売り手の価格設定と買い手の探索が相互に関わる模型。
- 例外・限界
- 均一・無作為訪問の模型は同じ独占価格となる極端な場合。価格分散には情報入手・需要・費用・混合戦略等の追加条件がある。
Unemployment, Vacancies, Wages — Nobel Lecture manuscript (2011-02-01)(Peter A. Diamond/MIT Economics(著者原稿))https://economics.mit.edu/research/publications/unemployment-vacancies-wages
売り手も、買い手の探し方に反応する
探索費用は買い手だけの負担ではなく、売り手が他店と買い手の行動に反応する価格設定を通じて市場全体へ影響する。
- 対象
- 同質商品市場で買い手の価格探索費用と売り手の価格設定を考える模型。
- 条件
- 同質商品でも店ごとの価格を知るには訪問等の費用があり、売り手の価格設定と買い手の探索が相互に関わる模型。
- 例外・限界
- 均一・無作為訪問の模型は同じ独占価格となる極端な場合。価格分散には情報入手・需要・費用・混合戦略等の追加条件がある。
Unemployment, Vacancies, Wages — Nobel Lecture manuscript (2011-02-01)(Peter A. Diamond/MIT Economics(著者原稿))https://economics.mit.edu/research/publications/unemployment-vacancies-wages
同じ価格になる模型と、違う価格が残る模型
Diamondの均一模型は全店が同じ独占価格を付ける極端な結果を持つ一方、より豊かな情報・需要・費用等の条件を持つ模型では同質商品の価格分散も生じうる。
- 対象
- 同質商品市場で買い手の価格探索費用と売り手の価格設定を考える模型。
- 条件
- 同質商品でも店ごとの価格を知るには訪問等の費用があり、売り手の価格設定と買い手の探索が相互に関わる模型。
- 例外・限界
- 均一・無作為訪問の模型は同じ独占価格となる極端な場合。価格分散には情報入手・需要・費用・混合戦略等の追加条件がある。
Unemployment, Vacancies, Wages — Nobel Lecture manuscript (2011-02-01)(Peter A. Diamond/MIT Economics(著者原稿))https://economics.mit.edu/research/publications/unemployment-vacancies-wages