経済の基礎
最低賃金を上げると、仕事は減る?
最低賃金の引上げだけから、仕事が必ず減るとも増えるとも決められません。競争的な市場を想定する模型と、雇用主に賃金設定力がある模型では結果が違います。引上げの大きさや市場の条件を示したうえで、模型の説明と実際に起きた変化を分ける必要があります。
基本の用語
最低賃金は、適用される働く人へ支払う賃金の下限です。法律上の支払義務があることと、その下限を変えたときに雇用がどう動くかは別の問いです。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 給料は、働く量だけで決まる?生産性・交渉・制度と労働条件
- 求人があるのに失業が残るのはなぜ?求人の総数と、仕事が合うことを分ける。
支払義務と雇用への影響を分ける
日本の最低賃金法は、適用される最低賃金額以上の支払を求めます。計算に入れる賃金の範囲や、許可を必要とする減額特例があるため、実際の支払を確認するときは対象をそろえます。ここでは金額の改定情報ではなく、下限を変えた場合の雇用を考えます。
「低い賃金の人を支えたい」という制度の目的は、それ自体では仕事の数の変化を証明しません。賃金が上がった人、勤務時間が変わった人、採用されなかった人など、何の変化を問うかを先に分けます。支払義務を守ることと、政策の効果を測ることを同じ結論にまとめないようにします。
競争的な市場では雇いたい量が減る
OpenStaxの競争的な労働市場の模型では、働く人の供給と会社の需要を賃金に対応させます。他の条件を動かさなければ、高い賃金ほど会社が雇いたい量は小さくなり、働きたい量は大きくなります。その二つが合う賃金を均衡賃金と呼びます。
均衡より高い最低賃金を置くと、会社が雇いたい量と働きたい量の間に開きが生じます。この模型は仕事が減るという説明の根拠になります。一方、最低賃金が均衡より低いままなら、すでにそれ以上の賃金で取引しているので、この下限は結果を変えません。
ここで比べたのは、需要・供給の条件を固定した模型です。雇いたい労働の量は人数でも時間でも変わりえます。模型の図にある開きを、そのまま日本で新たに失業する人の数へ置き換えることはできません。
雇用主に賃金設定力があると結果が変わる
COREの別の模型は、雇用主が賃金を設定する力を持つ場合を考えます。企業は採用を少なく保つことで、低い賃金を提示できることがあります。そこで最低賃金がその選択を制限すると、賃金と雇用がともに増える範囲が生まれます。
この説明にも条件があります。最低賃金をさらに高くし、企業が利益を上げられない水準にすれば、雇用の削減や閉鎖が起こりえます。賃金設定力があるならどんな引上げも有利、という意味ではありません。企業の利益と働く人の利益も同じ動きとは限りません。
二つの模型の違いは、単に結論の好みではなく、企業と働く人がどんな選択肢を持つかの違いです。現実の効果を読むときは、対象の地域・仕事・期間や引上げ幅を確認し、模型が示す可能性と観測された結果を区別します。
「下限を上げたので仕事が減るはずだ」という説明を聞いたら、どの市場を想定し、何を変えない条件としているかを確かめます。反対の結論でも、同じように前提を確認する必要があります。
- 競争的な市場
需要・供給を固定。均衡より高い下限は、雇いたい量を減らす。
- 雇用主に賃金設定力がある市場
一定の範囲では賃金と雇用がともに増える可能性。高すぎる下限では削減もある。
並列の模型比較です。どちらが現実の市場に当てはまるか、実際の効果がどれほどかは、この図だけでは決まりません。
最低賃金の高さと、もともとの賃金を比べる
架空の市場で、競争的な模型の均衡賃金を1時間1,500円と設定します。最低賃金を1,200円から1,300円にしても、もとの1,500円で働く取引はこの下限に制限されません。一方、1,500円から1,600円へ上げる場合は、同じ模型でも会社が選べる条件が変わります。
この金額は実際の地域別最低賃金ではありません。同じ100円の引上げでも、もとの賃金との位置関係で意味が違うことを見る例です。別の模型で賃金設定力を加えれば、雇用の反応についても別の検討が必要になります。
持ち帰る見方
- 競争的な市場と賃金設定力のある市場では、模型の結果が異なる。
- 下限がもとの賃金を制限するか、引上げがどれほど大きいかを確かめる。
- 模型の可能性と実際に測った政策効果を分ける。
次に広がる疑問
- 求人と仕事を探す人の条件のずれを見る
- 政策の効果を比較から確かめる条件を読む
順番に読んでいる方へ
出典
最低賃金法(e-Gov法令API取得本文)(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/334AC0000000137
確認日:2026-10-04
Principles of Economics 3e, 4.1 Demand and Supply at Work in Labor Markets(David Shapiro・Daniel MacDonald・Steven A. Greenlaw/OpenStax (2022))https://openstax.org/books/principles-economics-3e/pages/4-1-demand-and-supply-at-work-in-labor-markets
確認日:2026-10-04
The Economy 2.0: Microeconomics, 6.13 Application: The minimum wage(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy/microeconomics/06-firm-and-employees-13-minimum-wage.html
確認日:2026-10-04
本文の出典・補足
支払義務と雇用への影響を分ける
日本の最低賃金は適用対象の労働者に一定以上の賃金を払う義務を定める制度であり、その義務と雇用への影響は別の問いである。
- 対象
- 最低賃金法第4条・第7条・第9条
- 条件
- 日本の適用最低賃金・対象賃金と許可された減額特例
- 例外・限界
- 現在の金額や政策による雇用の因果効果を条文から推定しない
最低賃金法(e-Gov法令API取得本文)(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/334AC0000000137
競争的な市場では雇いたい量が減る
競争的な労働市場で需要・供給を固定した模型では、均衡より高い最低賃金は雇用したい量を減らし、働きたい量との開きを生む。均衡より低ければ拘束しない。
- 対象
- OpenStax 4.1 Price Floors / Figure 4.4・非拘束の段落
- 条件
- 他条件を固定した需要・供給の模型、賃金の価格下限
- 例外・限界
- 模型の数量を現実の失業者数や日本の実証結果としない
Principles of Economics 3e, 4.1 Demand and Supply at Work in Labor Markets(David Shapiro・Daniel MacDonald・Steven A. Greenlaw/OpenStax (2022))https://openstax.org/books/principles-economics-3e/pages/4-1-demand-and-supply-at-work-in-labor-markets
雇用主に賃金設定力があると結果が変わる
賃金設定力を持つ雇用主の模型では、一定範囲の最低賃金が賃金と雇用をともに増やす場合があるが、高すぎれば雇用減少や閉鎖も起こりうる。
- 対象
- CORE 2.0 §6.13 Figure 6.19 と高い最低賃金の段落
- 条件
- 雇用主の利潤最大化・賃金が受諾や努力条件に関わる模型
- 例外・限界
- 必ず雇用が増えるとも減るとも断定しない。紹介された実証研究の数値は採用しない
The Economy 2.0: Microeconomics, 6.13 Application: The minimum wage(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy/microeconomics/06-firm-and-employees-13-minimum-wage.html