経済の基礎
同じ一万円でも、得する喜びより失う痛みが大きい?
参照点からの損失を、同じ大きさの利得より強く評価する模型を損失回避と呼びます。最終的な資産額だけでなく、どの状態を基準に増減を見たかが関わります。金額のばらつきを嫌うリスク回避とは、同じ概念ではありません。
基本の用語
効用の模型は評価の仕組みを表します。ここでは、今持つ額などの参照点からの損得を評価します。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 平均でもらえる金額が同じなら、くじと確実なお金は同じ?期待金額は、一回の結果を保証しない。
最終額に加え、何から増減したかを見る
同じ一万円の変化でも、一万円増えることと一万円減ることの評価が対称でない、と置くことができます。参照点からの利得より、損失の絶対値に大きな重みを付けるのが損失回避の基本です。
通常の期待効用模型では、最終的な資産額へ効用を付けます。一方、参照点に依存する価値関数では、最終額が同じでも、それが基準から増えた額か減った額かで評価が違いえます。結果の金額だけでなく、その比較の起点を定める必要があります。
基準が今の資産なのか、期待していた額なのかなどで、何を損失と数えるかが変わります。基準点を説明せず「損したくない人」とだけ呼ぶと、どの損を比べたかが分かりません。模型へ入れた基準と、実際の本人の基準を区別します。
例えば結果が一万円となる同じ案でも、基準がゼロなら一万円の利得、基準が二万円なら一万円の損失です。参照点を変えると最終額を変えずに損得の分類が変わります。ただし本人の基準点を外から好きに指定して、現実の評価が分かったと考えることはできません。
損失の重みと、リスク回避を分ける
リスク回避は、例えば最終資産の効用が凹であるため、同じ平均のくじより確実な額を好む性質です。これは参照点からの損失へ特別な重みを置かなくても生じます。損失回避は、基準点の両側で利得と損失の評価が非対称になる性質です。
単純な例として、利得一円に1点、損失一円に−2点を付けるとします。半々で100円の利得か100円の損失なら、平均金額の変化はゼロですが、平均評価は50−100=−50点です。同じ大きさの利得と損失が評価では打ち消し合いません。
この係数2は説明のための設定で、人が必ず損失を二倍重く感じるという観測ではありません。またプロスペクト理論全体には、利得側と損失側の曲率や確率の重み付けもあります。損失回避の係数一つだけで、全ての選び方を説明したことにはなりません。
基準点が違えば、同じ結果の見え方も違う
選択肢を利得として示すか、損失として示すかで、基準点が変わる場合があります。参照点を持つ模型は、同じ最終結果でも提示方法で判断が変わる可能性を扱います。ただし、表示を変えれば全員が同じ方向へ動く、と予測するものではありません。
値下げ、返品、所有する品の評価などを考えるときも、失う物をどの基準から数えているかが問いになります。所有していること自体から別の法的権利や取引費用が生じる場合は、その条件もそろえます。行動の違いを全て心理的な損失回避だけへ帰さないことが大切です。
ニュースや調査の説明を読む際は、最終結果、参照点、確率、評価の非対称性を分けます。損失が怖いという言葉だけで損失回避が測れたとは言えません。リスク回避の説明で足りるのか、基準点を加えることでどの選択を説明するのかを確かめます。
- 利得100円
基準から増えた100円を、100点と評価。
- 損失100円
基準から減った100円を、−200点と評価。
変化ゼロを基準とし、利得一円1点、損失一円−2点に置きます。
基準点と評価を置く架空のくじ
変化0を基準に、利得は一円1点、損失は一円−2点とします。半々で+100円か−100円のくじの平均評価は−50点。一方、半々で+220円か−100円なら110−100=10点です。
利得を大きくすると損失の重みを補える設定ですが、その必要額は係数に依存します。これは平均的な人の測定値でも、あらゆるくじへの推奨でもありません。
持ち帰る見方
- 損失回避は、参照点からの利得と損失の非対称な評価。
- 最終資産の凹効用によるリスク回避と区別する。
- 基準点と係数の設定を、実測した行動へ置き換えない。
次に広がる疑問
- 確率を使った期待効用では、何を平均する?
- 今日と将来で評価が変わる場合は?
順番に読んでいる方へ
出典
Critiques of Expected Utility — MIT 14.121 (2015)(MIT OpenCourseWare / Alexander Wolitzky)https://ocw.mit.edu/courses/14-121-microeconomic-theory-i-fall-2015/1ac0e4133adb6b8d4523c875ba24e94b_MIT14_121F15_8S.pdf
確認日:2026-10-07
本文の出典・補足
最終額に加え、何から増減したかを見る
プロスペクト理論は参照点を持ち、そこからの利得と損失を異なって評価する。
- 対象
- 基準点からの利得と損失に異なる重みを置く損失回避と、最終資産の凹効用によるリスク回避を分ける。
- 条件
- 参照点からの利得と損失を異なる価値関数で評価する模型。本文数例は損失の重みを2、利得を1とする架空設定で、平均的な人の実測値ではない。
- 例外・限界
- 損失回避と最終資産の凹効用によるリスク回避は違う。プロスペクト理論全体には曲率や確率重みもあり、単一の係数だけで全行動を説明しない。
Critiques of Expected Utility — MIT 14.121 (2015)(MIT OpenCourseWare / Alexander Wolitzky)https://ocw.mit.edu/courses/14-121-microeconomic-theory-i-fall-2015/1ac0e4133adb6b8d4523c875ba24e94b_MIT14_121F15_8S.pdf
損失の重みと、リスク回避を分ける
参照点で損失側を大きく評価する折れ曲がりは損失回避を表す。
- 対象
- 基準点からの利得と損失に異なる重みを置く損失回避と、最終資産の凹効用によるリスク回避を分ける。
- 条件
- 参照点からの利得と損失を異なる価値関数で評価する模型。本文数例は損失の重みを2、利得を1とする架空設定で、平均的な人の実測値ではない。
- 例外・限界
- 損失回避と最終資産の凹効用によるリスク回避は違う。プロスペクト理論全体には曲率や確率重みもあり、単一の係数だけで全行動を説明しない。
Critiques of Expected Utility — MIT 14.121 (2015)(MIT OpenCourseWare / Alexander Wolitzky)https://ocw.mit.edu/courses/14-121-microeconomic-theory-i-fall-2015/1ac0e4133adb6b8d4523c875ba24e94b_MIT14_121F15_8S.pdf
基準点が違えば、同じ結果の見え方も違う
参照点に依存する評価は、選択肢の提示の仕方で行動が異なるフレーミング効果を説明できる模型の要素となる。
- 対象
- 基準点からの利得と損失に異なる重みを置く損失回避と、最終資産の凹効用によるリスク回避を分ける。
- 条件
- 参照点からの利得と損失を異なる価値関数で評価する模型。本文数例は損失の重みを2、利得を1とする架空設定で、平均的な人の実測値ではない。
- 例外・限界
- 損失回避と最終資産の凹効用によるリスク回避は違う。プロスペクト理論全体には曲率や確率重みもあり、単一の係数だけで全行動を説明しない。
Critiques of Expected Utility — MIT 14.121 (2015)(MIT OpenCourseWare / Alexander Wolitzky)https://ocw.mit.edu/courses/14-121-microeconomic-theory-i-fall-2015/1ac0e4133adb6b8d4523c875ba24e94b_MIT14_121F15_8S.pdf