経済の基礎
測れる成果だけに報酬を付けると、ほかの仕事はどうなる?
一人が複数の仕事をする場合、測りやすい成果への報酬を強めると、測りにくい大切な仕事から努力が移る模型があります。努力が互いに代替的か、補完的かでも答えは違います。成果給を設けるかだけでなく、何を測り、どの仕事を残したいかを比べます。
基本の用語
本人と代理人の模型は、望む行動を完全に観察して契約できない関係を扱います。今回は一人が行う複数の仕事を考えます。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 仕事を任せると、なぜ監督が必要になる?利害の違いと、契約で保証できない行動に注目する。
測れる仕事と、大切な仕事は一致しない
販売担当者が新規契約を取る仕事と、既存顧客の相談へ丁寧に答える仕事をするとします。契約件数は数えやすくても、相談の質は測りにくいかもしれません。件数だけに報酬を付けると、会社が本当に求める全ての仕事へ同じ誘因を作れません。
ここでの問題は、何人ものチームでただ乗りすることとは違います。一人でも、限られた時間をどの活動へ使うかという選択があります。本人が怠けているとは限らず、報酬の条件に合わせて一つの仕事へ努力を増やした結果、別の仕事が減ることがあるのです。
測れない仕事が存在するだけで問題が決まるわけではありません。測れる仕事の努力を増やしたとき、もう一方の努力がどう変わるかが重要です。成果の測りやすさと、仕事間の技術や時間の関係を合わせて考えます。
一つの報酬を強めると、努力の向きが変わる
二つの仕事が同じ時間を取り合うなら、一方への努力が他方から移りやすくなります。複数仕事の報酬模型では、このような代替性が強く、他方の成果へ契約で報酬を付けられない場合、測れる仕事の成果給を弱める理由があります。
測れる成果を一つずつ増やす得だけでなく、そのために失う別の成果を費用に含めるためです。契約件数への報酬が本人にとって得でも、顧客の維持に重要な相談が減るなら、会社全体には望ましい結果でない場合があります。
固定給は、測れる仕事のために別の活動を捨てる金銭的誘因を弱める一つの候補です。しかし努力する動機が全部なくなれば全体の成果も減りえます。模型では本人が測れない仕事をする動機や、報酬とリスクの関係も条件として置き、固定給を無条件の正解にはしません。
測れる仕事への報酬を弱めるときにも、全体の便益がどこで変わるかを見ます。件数の低下で失う得と、相談へ努力を戻すことで増える得を合わせて比較します。単に測れない仕事があるから、測れる仕事への報酬をゼロへすればよいという判断ではありません。
報酬を弱めることにも、条件と費用がある
仕事どうしが補完的なら結論は違います。例えば正確な記録を取る努力が、後の相談も効率よくするなら、一方の努力を増やすことが他方を助ける設定を置けます。この場合には、測れる仕事への報酬を強くする方向がありえます。
評価制度を点検するときは、指標に表れない重要な仕事を先に並べます。次に、指標を増やす努力が、それらを減らすのか助けるのかを確認します。指標の数を増やせば解決するとは限らず、新しい測定にも誤差や負担があれば、それを含めて比べます。
実際に仕事の質が下がった原因を、この模型だけで認定することはできません。報酬変更前後の業務、人数、顧客条件などを確かめる必要があります。模型が与えるのは、測れる成果の改善だけを見て全体の改善と結論しないための視点です。
- 変更前の設定
契約4・相談4。
- 件数報酬後の設定
契約6・相談2。測れる件数の改善だけでは全体を評価できない。
一人の同じ8単位の時間を二活動へ配る、代替的な努力の設定です。
二つの仕事へ時間を配る架空の店
一日の時間を8単位とし、新規契約へ4、既存相談へ4を使っていたとします。契約件数だけに報酬を付けると、本人が契約へ6、相談へ2を選ぶ設定を考えます。契約の数字が増えても、相談の時間は半分です。
この例は努力の代替を見せる配分であり、実際の制度の効果量ではありません。記録の改善が相談を助けるような補完関係なら、同じ時間の奪い合いの例をそのまま使えません。
持ち帰る見方
- 一人の複数仕事でも、測定の差が努力の配分を変える。
- 努力が代替的か補完的かを確かめる。
- 一つの指標の改善と、全体の仕事の改善を分ける。
次に広がる疑問
- チームの成果だけに報酬を付けると?
- 順位を使う報酬は、測定の何を変える?
順番に読んでいる方へ
出典
Sections1–2: Moral Hazard and Incentives Contracts, MIT14.124 (2017)(MIT OpenCourseWare / Bengt Holmström(講義教材))https://ocw.mit.edu/courses/14-124-microeconomic-theory-iv-spring-2017/be21e9cc762231c50ab42bbf35ead5db_MIT14_124S17_LecNote1_2.pdf
確認日:2026-10-05
本文の出典・補足
測れる仕事と、大切な仕事は一致しない
複数仕事の報酬設計では、成果の情報構造が仕事ごとの努力配分に影響する。
- 対象
- 複数の活動への努力配分と測定の差が成果連動報酬を弱くする理由を示す。
- 条件
- 一人が複数活動へ努力を配分し、一方の成果が測りやすく他方は契約できない。努力が代替的で、リスク回避の代理人・線形報酬等を置く教材模型。
- 例外・限界
- 努力が補完的なら結論が逆向きになりうる。固定給を全職場の最適解と断定しない。測れない仕事を本人が行う動機等も模型条件に含める。
Sections1–2: Moral Hazard and Incentives Contracts, MIT14.124 (2017)(MIT OpenCourseWare / Bengt Holmström(講義教材))https://ocw.mit.edu/courses/14-124-microeconomic-theory-iv-spring-2017/be21e9cc762231c50ab42bbf35ead5db_MIT14_124S17_LecNote1_2.pdf
一つの報酬を強めると、努力の向きが変わる
一方の仕事しか測れず努力が代替的な場合、他方への努力の移動を考慮して測れる仕事の報酬を弱める模型がある。
- 対象
- 複数の活動への努力配分と測定の差が成果連動報酬を弱くする理由を示す。
- 条件
- 一人が複数活動へ努力を配分し、一方の成果が測りやすく他方は契約できない。努力が代替的で、リスク回避の代理人・線形報酬等を置く教材模型。
- 例外・限界
- 努力が補完的なら結論が逆向きになりうる。固定給を全職場の最適解と断定しない。測れない仕事を本人が行う動機等も模型条件に含める。
Sections1–2: Moral Hazard and Incentives Contracts, MIT14.124 (2017)(MIT OpenCourseWare / Bengt Holmström(講義教材))https://ocw.mit.edu/courses/14-124-microeconomic-theory-iv-spring-2017/be21e9cc762231c50ab42bbf35ead5db_MIT14_124S17_LecNote1_2.pdf
報酬を弱めることにも、条件と費用がある
複数仕事の努力が補完的な場合は、測れる仕事の報酬を増やす方向があり、代替的な場合と結論を分ける。
- 対象
- 複数の活動への努力配分と測定の差が成果連動報酬を弱くする理由を示す。
- 条件
- 一人が複数活動へ努力を配分し、一方の成果が測りやすく他方は契約できない。努力が代替的で、リスク回避の代理人・線形報酬等を置く教材模型。
- 例外・限界
- 努力が補完的なら結論が逆向きになりうる。固定給を全職場の最適解と断定しない。測れない仕事を本人が行う動機等も模型条件に含める。
Sections1–2: Moral Hazard and Incentives Contracts, MIT14.124 (2017)(MIT OpenCourseWare / Bengt Holmström(講義教材))https://ocw.mit.edu/courses/14-124-microeconomic-theory-iv-spring-2017/be21e9cc762231c50ab42bbf35ead5db_MIT14_124S17_LecNote1_2.pdf