数字と報道

不明な値を一つ埋めれば、推計の不確かさは消える?

不明な値を一つの推測値に置き換えても、欠測の不確かさは消えません。多重補完では複数の完成データを分析し、一つ一つの推計の誤差と、補完による推計どうしの違いを合わせます。欠測の仕組みとモデルの条件も必要です。

基本の用語

欠測を含む表を完成させることと、母集団の平均などをどれだけ確かに推計できるかは別です。値を埋めた表を観測済みの完全なデータとして扱えば、推測した値が別だった可能性を見落とします。多重補完は、その違いを推論に残す方法です。

もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。

複数の完成データを別々に分析する

欠測部分に、モデルから生成した複数のもっともらしい値を入れ、複数の完成データを作ります。元から観測されていた部分は共通に保ち、補完した部分を変えます。補完値は、実際に再調査して得た観測値ではありません。

それぞれの完成データに同じ分析を行い、最後に同じ母数についての推定値と分散を統合します。完成データを一つだけ選んで唯一の正解とするのでも、補完した全行を新たな独立回答者としてまとめるのでもありません。

どんな人の値が欠けるかをモデルで考える

MARという仮定では、観測済みの情報を条件にすると、欠測する確率が未観測の値によってさらに変わらないと考えます。誰の値が欠けやすいかを、モデルに含める観測情報で説明する条件です。

例えば観測済みの群ごとに欠測の起こり方を考えることと、全員について欠測の起こり方が同じと置くことは異なります。未観測の値自身にも欠測確率が依存するMNARなら、MARを前提とした推論をそのまま無条件に適用しません。

一つの推計の誤差と、補完どうしの違いを足す

同じ母数の推定値を統合するRubinの規則では、総分散T=Ū+(1+1/m)Bです。mは補完数で、m>1とします。Ūは各分析で推定した分散の平均、Bはm個の推定値のばらつきで、平均との差の二乗和をm−1で割ります。

Ūは回答値そのものの分散ではなく、母数の推定に伴う分散です。補完内の不確かさに、補完間の違いと有限の補完数による項を足します。一つの補完ではBをこの方法で評価できず、補完数を増やすだけで欠測由来のBが必ずなくなるわけでもありません。

モデルと統合する量に条件がある

複数の表を作っただけで、妥当な推論が保証されるわけではありません。適切な補完手続と、完全データを分析するときのモデルの妥当性が必要です。観測情報、欠測の仮定、推定する母数を合わせて考えます。

標準の統合では、推定量が近似的に正規分布する尺度を使います。相関係数や比などは、適切な尺度への変換が必要になる場合があります。補完数の多さを、モデルの誤りやMNARの可能性まで解決した証拠とはしないことが大切です。

観測値を保ち、補完による違いを推計へ残す
  1. 複数の補完

    欠測部分についてモデルから複数の完成データを作る。

  2. 各データの分析

    同じ母数を同じ方法で推定し、それぞれの分散も求める。

  3. 推定の統合

    補完内と補完間の不確かさを合わせる。

適切な補完と分析モデルが必要。補完値は新しい観測事実ではない。

二つの推計の分散を合わせる

架空の例

同じ母数の推定値を二つの補完から10と12、各分析の推定分散をともに4と置きます。統合推定値は11です。Bは((10−11)²+(12−11)²)÷(2−1)=2となります。

Ū=4、m=2なので、総分散は4+(1+1/2)×2=7です。4だけを残すと補完間の違いを落とします。実際の分析では、この計算に加え、どの観測情報から欠測を説明したかと、値を生成するモデルが妥当かを確かめます。

持ち帰る見方

  • 複数の完成データを同じ方法で分析し、推定の不確かさを統合する。
  • 観測値と補完値を分け、欠測機構・モデル・統合尺度の条件を残す。

次に広がる疑問

  • 不明な値とゼロを区別する理由を読む
  • 調査の重みが何を補正するかを読む
  • 記録をつなぐ際の欠測や照合誤りを考える

学習地図で、ほかの分野とのつながりを見る

出典

  • Flexible Imputation of Missing Data, Second Edition — Multiple imputation in a nutshell(Stef van Buuren)https://stefvanbuuren.name/fimd/sec-nutshell.html

    確認日:2026-10-05

  • Flexible Imputation of Missing Data, Second Edition — Concepts of MCAR, MAR and MNAR(Stef van Buuren)https://stefvanbuuren.name/fimd/sec-MCAR.html

    確認日:2026-10-05

  • Flexible Imputation of Missing Data, Second Edition — Three sources of variation and proper imputation(Stef van Buuren)https://stefvanbuuren.name/fimd/sec-whyandwhen.html

    確認日:2026-10-05

  • Flexible Imputation of Missing Data, Second Edition — Parameter pooling(Stef van Buuren)https://stefvanbuuren.name/fimd/sec-pooling.html

    確認日:2026-10-05

本文の出典・補足

複数の完成データを別々に分析する

多重補完は、欠測値について複数のもっともらしい完成データを作り、それぞれを分析した後、推定結果を統合する。

対象
欠測データを補う多重補完の基本手順。
条件
観測済みの値は共通に保ち、欠測部分の値をモデルから生成する。
例外・限界
補完値は新たに観測した事実ではなく、一つの完成データを唯一の正解としない。
  • Flexible Imputation of Missing Data, Second Edition — Multiple imputation in a nutshell(Stef van Buuren)https://stefvanbuuren.name/fimd/sec-nutshell.html

どんな人の値が欠けるかをモデルで考える

MARは、観測済みの情報を条件にしたとき、欠測する確率が未観測の値によってさらに変わらないという欠測機構の仮定である。

対象
通常のMARを前提にする欠測推論。
条件
欠測確率の違いを、モデルに含めた観測情報によって説明する。
例外・限界
欠測確率が未観測の値にも依存するMNARでは、MARだけを前提とした分析を無条件に使わない。
  • Flexible Imputation of Missing Data, Second Edition — Concepts of MCAR, MAR and MNAR(Stef van Buuren)https://stefvanbuuren.name/fimd/sec-MCAR.html

一つの推計の誤差と、補完どうしの違いを足す

同じ母数の推定値を統合するRubinの規則では、総分散Tは補完内分散の平均Ūに、補完間分散Bの(1+1/m)倍を足したT=Ū+(1+1/m)Bとなる。

対象
m>1個の適切な補完から、同じ母数を推定する場合。
条件
Ūは各分析の推定分散の平均、Bはm個の推定値の不偏分散で分母m−1、mは補完数。
例外・限界
単一補完ではBをこの方法で評価できない。補完数を増やしても、欠測に由来するBそのものを必ずゼロにするわけではない。
  • Flexible Imputation of Missing Data, Second Edition — Three sources of variation and proper imputation(Stef van Buuren)https://stefvanbuuren.name/fimd/sec-whyandwhen.html

モデルと統合する量に条件がある

複数の値を埋めただけで妥当な推論になるわけではなく、適切な補完方法と分析モデルが必要であり、統合する量に合う尺度も選ぶ。

対象
多重補完による母数推定と不確実性の評価。
条件
適切な補完と、完全データを分析するモデルの妥当性を前提とする。標準の統合では推定量が近似的に正規分布する尺度を使う。
例外・限界
相関係数や比などは尺度変換が必要な場合がある。MNARの可能性を補完数の多さだけで解決したとはしない。
  • Flexible Imputation of Missing Data, Second Edition — Three sources of variation and proper imputation(Stef van Buuren)https://stefvanbuuren.name/fimd/sec-whyandwhen.html

  • Flexible Imputation of Missing Data, Second Edition — Parameter pooling(Stef van Buuren)https://stefvanbuuren.name/fimd/sec-pooling.html

  • Flexible Imputation of Missing Data, Second Edition — Concepts of MCAR, MAR and MNAR(Stef van Buuren)https://stefvanbuuren.name/fimd/sec-MCAR.html