経済の基礎
失業率を下げれば、物価上昇率はいつも同じだけ上がる?
失業と物価上昇率の関係は、期待や供給の条件によって変わります。短期に逆向きの関係がある模型でも、同じ失業率ならいつも同じ物価上昇率になるとは限りません。期待が変われば関係自体が移るため、失業を下げ続けるための固定した交換比率とは読めません。
基本の用語
物価上昇率は物価が上がる速さで、物価の水準とは違います。ここでは賃金・価格設定と、期待の更新を置いたCOREの模型を考えます。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 求人があるのに失業が残るのはなぜ?求人の総数と、仕事が合うことを分ける。
- 一つの値上げとインフレは、どう違う?一般物価・購買力と指数
失業と物価の関係には、比較条件がある
失業率が低くなると、働く人の他の仕事の選択肢が増え、企業との賃金交渉へ関わるという模型があります。企業の価格設定が決める実質賃金と、働く人が求める実質賃金の間に差があれば、賃金と価格を引き上げる方向へ働きます。期待と供給条件を固定すると、低失業と高い物価上昇率が結び付く短期の関係を考えられます。
この関係を短期フィリップス曲線と呼びます。「失業した人が少なければ何でも値上がりする」という定義ではなく、賃金と価格を設定する条件付きの説明です。どのような物価上昇を予想し、供給条件がどうなっているかを合わせて読まなければ、失業率だけから物価上昇率を決めることはできません。
「失業率が下がった後に物価上昇率が上がった」という観測も、模型の一つの経路をそのまま証明するわけではありません。同じ期間に供給費用や期待も変わっていれば、複数の影響が重なっています。期待を固定した比較は、そのうち一つを取り出す条件です。長い期間の点を一つの線で結んで、その傾きを将来の政策へ使う前に、条件が同じだったかを確かめる必要があります。短期という言葉も、すべての国で同じ年数を示すものではなく、ここでは期待や供給条件を固定した比較の意味で使っています。
同じ失業率でも、期待が変われば物価の動きが変わる
来年の物価が上がると予想すれば、同じ実質賃金を保つために求める名目賃金の上昇率も高くなります。企業がその賃金の変化を費用へ織り込み価格を設定する模型では、期待物価上昇率が高いと、同じ失業率でも物価上昇率が高くなりえます。曲線上を動くことと、曲線自体が移ることは違います。
過去の物価上昇率を翌期の期待へ反映する設定なら、一度物価上昇が速くなった後に、次の賃金・価格設定にもその予想が入ります。失業率を低いまま維持して、実質賃金の要求の差も残るなら、物価上昇率がさらに高くなる経路が生まれます。期待が常にこの方法で決まるという現実の断定ではなく、期待の更新を置いた場合の結果です。
一定の交換比率として、政策を選べない
そのため、最初の期間に見えた失業と物価の組合せを、何年も続く政策メニューのように扱うことはできません。低失業を維持したいという目標と、物価上昇率を一定に保てるという結果は別です。模型では、物価上昇率を安定させる失業率という概念を置きますが、その率は直接観測できる固定の自然定数ではありません。
供給費用の上昇などでも関係は変わります。同じ失業率でも、原材料の条件、労働市場の制度、企業の価格設定力が違う期間を比較するなら、曲線の位置を同じと置けるかを確認します。現実の関係を知るには、推計の方法や対象期間が必要です。この模型から現在の日本の安定化失業率や、必要な政策の大きさを算出したわけではありません。
- 最初
期待2%+上乗せ1ポイント=実現3%
- 翌期
期待3%+上乗せ1ポイント=実現4%
- 次の期
期待4%+上乗せ1ポイント=実現5%
失業率と上乗せを固定し、期待だけを更新する模型。
架空の期待更新で、同じ失業率を追う
ある低失業の状態で、期待物価上昇率に毎期1ポイント上乗せされると仮定します。最初の期待が2%なら実現は3%。翌期の期待を前期実現の3%とするなら、同じ失業率でも実現は4%、さらに次は5%です。
物価上昇率が3%から4%へ変わることは、物価水準が1%だけ上がることではありません。物価が上がる速さが1ポイント増えたという比較です。2、3、4、5%は模型の計算用で、景気や政策の予測値ではありません。
持ち帰る見方
- 曲線に沿う変化と、期待や供給条件による曲線の移動を分ける。
- 短期の関係を恒久的な交換比率と読まず、期待形成の前提を確認する。
次に広がる疑問
- 将来の予想は、今日の賃金や価格をどう動かすだろう?
順番に読んでいる方へ
出典
The Economy 1.0, Unit 15: Inflation, unemployment, and monetary policy(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy-v1/book/text/15.html
確認日:2026-10-04
本文の出典・補足
失業と物価の関係には、比較条件がある
期待と供給条件を固定した短期フィリップス模型では、失業と物価上昇率の逆向きの関係を考える。
- 対象
- §15.5 What happened to the Phillips curve? / §15.6 Expected inflation and the Phillips curve / §15.7 Supply shocks
- 条件
- 賃金と価格設定の模型。期待を前期実績から更新する場合と、期待固定の場合を分ける。
- 例外・限界
- 一定の失業率と物価の恒久的交換比率ではない。供給ショック・労働市場条件・期待形成で関係が変わる。
The Economy 1.0, Unit 15: Inflation, unemployment, and monetary policy(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy-v1/book/text/15.html
同じ失業率でも、期待が変われば物価の動きが変わる
期待物価上昇率の変化は短期フィリップス曲線を移動させ、同じ失業率でも物価上昇率が異なりうる。
- 対象
- §15.5 What happened to the Phillips curve? / §15.6 Expected inflation and the Phillips curve / §15.7 Supply shocks
- 条件
- 賃金と価格設定の模型。期待を前期実績から更新する場合と、期待固定の場合を分ける。
- 例外・限界
- 一定の失業率と物価の恒久的交換比率ではない。供給ショック・労働市場条件・期待形成で関係が変わる。
The Economy 1.0, Unit 15: Inflation, unemployment, and monetary policy(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy-v1/book/text/15.html
一定の交換比率として、政策を選べない
過去の物価上昇を期待へ反映する模型では低失業を持続するとインフレが加速しうるため、恒久的な一定交換関係はない。
- 対象
- §15.5 What happened to the Phillips curve? / §15.6 Expected inflation and the Phillips curve / §15.7 Supply shocks
- 条件
- 賃金と価格設定の模型。期待を前期実績から更新する場合と、期待固定の場合を分ける。
- 例外・限界
- 一定の失業率と物価の恒久的交換比率ではない。供給ショック・労働市場条件・期待形成で関係が変わる。
The Economy 1.0, Unit 15: Inflation, unemployment, and monetary policy(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy-v1/book/text/15.html