経済の基礎

人手が余っていても、会社が給料を下げないのはなぜ?

給料を下げると支払額は減りますが、努力や定着も変わるなら、成果を得る費用が必ず減るとは限りません。効率賃金の模型は、仕事を失うと失う便益が、働く人の行動に関わると考えます。その条件では、人手が余っていても会社が賃金を維持する理由があります。

基本の用語

ここでは会社が努力を完全には契約・確認できない労働規律の模型を使います。現実の全企業の賃金理由や、日本での解雇の有効性を決める説明ではありません。

もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。

努力を、契約ですべて決められるとは限らない

会社は働く時間を契約へ書けても、いつも丁寧に対応することや、見えない工程で十分に注意することを、すべて数値で確認できるとは限りません。努力の内容に重要な未確認部分が残るため、労働契約は不完備だと呼ばれます。任せた仕事の成果と、契約へ書ける項目の違いが出発点です。

この場合、時給を低くすることだけが、必要な努力を安く得る方法にはなりません。低賃金になって仕事を続ける利点が小さくなれば、努力や定着の反応も考える必要があります。会社の負担額と、得られる仕事の成果の両方を見るので、「賃金が低いほど効率がよい」と単純には言えません。

失職したときに失うものが、行動へ関わる

現在の仕事を続けた場合と、失職した場合の便益の差を雇用レントと呼びます。比較には賃金だけでなく、働く負担、失業中の生活、次の仕事が見つかるまでの時間などを入れます。今の仕事を離れればすぐ同じ条件の仕事へ移れる人と、長く探す人とでは、失う便益が違います。

労働規律模型では、努力が少ないと発見され失職する可能性があると置きます。失職による便益の喪失が大きいほど、それを避ける努力を選ぶ誘因が強くなります。会社は、賃金を上げることによってこの喪失を大きくし、努力を引き出せる場合があります。本人の性格や道徳性を測定した話ではなく、選択肢と利得を置いた説明です。

雇用レントを賃金の全額と読むと、働く負担や失職後にも得られる便益を差し引かない比較になってしまいます。今の仕事で得る純便益から、代わりの状態の純便益を引く比較です。その差が大きくても、賃金だけが理由とは限りません。再就職が難しくなった場合にも差は変わります。ただし、その条件で努力への誘因が強まることを、本人の生活が改善したことと混同してはいけません。会社の努力獲得費用、働く人の便益、失業中の負担は別々に評価する項目です。

会社は時給の安さと、一単位の成果の費用を比べる

会社は、賃金を一円増やす費用と、それでどれほど努力が増えるかを比べます。ある範囲では高い賃金でも成果一単位の費用が低くなり、その先では賃上げの費用の方が大きくなる、という反応を置けます。最も低い提示賃金と、利益を最大にする提示賃金が一致しない理由です。

仕事を求める人が余っていても、全員が低い賃金で同じ努力をするわけではないという前提なので、賃下げだけで市場がすぐ清算するとは限りません。ただし、努力を測れる仕事、他の報酬制度、監督の方法などが違えば結果も変わります。現実の企業について説明するには、賃金以外の条件と実際の行動も調べる必要があります。

架空の賃金と成果を比べる

時給1,200円で一時間の成果が0.5単位、時給1,400円なら0.7単位になる反応を仮定します。成果一単位の賃金費用は、前者が1,200÷0.5=2,400円、後者が1,400÷0.7=2,000円です。高い時給の方が、単位あたりの費用は低くなります。

0.5と0.7は説明用の反応で、賃上げをすれば現実にこの成果が出るという推定ではありません。品質や設備費用なども省いています。例が示すのは、時給の比較と、必要な成果を得る費用の比較が違うという点です。

持ち帰る見方

  • 賃金を下げる費用節約と、努力・定着が変わる反応を合わせて考える。
  • 効率賃金は条件付きの模型で、全企業の賃金や個別の解雇を決めない。

次に広がる疑問

  • 監督を強めることと、賃金を上げることは同じ効果を持つだろう?

順番に読んでいる方へ

学習地図で、ほかの分野とのつながりを見る

出典

  • The Economy 1.0, Unit 6: The firm: Owners, managers, and employees(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy-v1/book/text/06.html

    確認日:2026-10-04

本文の出典・補足

努力を、契約ですべて決められるとは限らない

労働規律模型では努力の非検証性により雇用契約が不完備となり、最安賃金が最安の努力獲得費用とは限らない。

対象
§6.3 Other people’s labour(不完備契約) / §6.5 Determinants of employment rent / §6.6 Labour discipline model / §6.7 Wages, effort, and profits
条件
努力を完全に契約・検証できず、失職リスクと再就職までの便益喪失が努力へ関わる。
例外・限界
模型で解雇を選択肢に置くことは日本の解雇の法的有効性を決めない。全企業の実測規則ではない。
  • The Economy 1.0, Unit 6: The firm: Owners, managers, and employees(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy-v1/book/text/06.html

失職したときに失うものが、行動へ関わる

現在の仕事を失う場合の便益喪失を雇用レントとし、提示賃金や再就職までの期間などが努力の誘因に関わる。

対象
§6.3 Other people’s labour(不完備契約) / §6.5 Determinants of employment rent / §6.6 Labour discipline model / §6.7 Wages, effort, and profits
条件
努力を完全に契約・検証できず、失職リスクと再就職までの便益喪失が努力へ関わる。
例外・限界
模型で解雇を選択肢に置くことは日本の解雇の法的有効性を決めない。全企業の実測規則ではない。
  • The Economy 1.0, Unit 6: The firm: Owners, managers, and employees(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy-v1/book/text/06.html

会社は時給の安さと、一単位の成果の費用を比べる

賃金を上げる費用と努力の反応を比べて利益を最大化すると、労働者が余っていても賃金を下げない模型がある。

対象
§6.3 Other people’s labour(不完備契約) / §6.5 Determinants of employment rent / §6.6 Labour discipline model / §6.7 Wages, effort, and profits
条件
努力を完全に契約・検証できず、失職リスクと再就職までの便益喪失が努力へ関わる。
例外・限界
模型で解雇を選択肢に置くことは日本の解雇の法的有効性を決めない。全企業の実測規則ではない。
  • The Economy 1.0, Unit 6: The firm: Owners, managers, and employees(CORE Econ)https://books.core-econ.org/the-economy-v1/book/text/06.html