数字と報道
平均の変化と、同じ人の変化は同じ?
集団の平均や割合の変化だけでは、同じ人がどう変わったかは分かりません。同じ人を追うパネル調査は移行を見られますが、追跡から外れた人や、同時に変わった別の条件にも注意が必要です。集団の変化、個人の変化、原因の判断を分けます。
基本の用語
ある時点の集団を調べるのが横断調査です。同じ対象範囲を別々の時点で調べる反復横断調査は、毎回同じ人とは限りません。パネル調査は、同じ標本の人や事業所などを繰り返し調べます。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 統計の数字は、何を数えたもの?対象・分母・期間・平均を確かめる
同じ割合でも、同じ人とは限らない
未就業の人の割合が二回とも同じでも、同じ人が未就業のままとは限りません。最初に未就業だった人が就業し、別の人が未就業になると、割合は変わらず、そこに含まれる人は入れ替わります。各時点の人数だけでは、誰がどの状態へ移ったかを復元できません。
パネル調査は同じ人の時点間の回答を対応させ、状態の移行を調べられます。ある状態の人がどれくらいいるかと、その状態が同じ人にどれくらい続くかは、別の問いです。前者には時点の集計、後者には対応した追跡情報が必要になります。
調査名が同じでも、全員が毎回同じかは方法の説明で確認します。一部ずつ対象を入れ替える調査もあります。新しい時点の集団を代表することと、同じ人の経過を追うことでは必要な情報が異なるため、知りたい移行に対応したデータかを確かめます。
追い続けられた人だけでよいか
同じ人を追う調査には、連絡が取れなくなる、回答負担で答えなくなる、といった追跡脱落があり得ます。残った人だけで分析すると、最初に選んだ集団と分析する集団の構成が変わります。脱落が調べたい状態と関係している場合には、結果が偏るおそれがあります。
さらに、母集団には新しく加わる人や退出する人がいます。最初の標本を固定して追うだけでは、現在の集団を代表し続けられるとは限りません。誰を追う設計なのか、脱落をどう扱うか、新しい対象をどう反映するかが必要な確認になります。
追跡人数が減った事実だけで、偏りの向きや大きさまで分かるわけでもありません。全員を追えた結果なのか、継続回答者の結果なのか、補正にどんな仮定を置いたかを読みます。追跡データがあることと、欠けた人の変化まで観測したことは別です。
前後の変化だけで政策の効果を決めない
同じ人の変化を見られると、集団平均だけより経過を詳しく知れます。ただし、施策の前後で状態が良くなったことだけから、その施策が原因だったとは判断できません。その間に別の条件が変わった可能性があります。
これは、観察上の関係と因果関係を分ける問題です。同じ人を追えば、すべての共通要因や逆方向の関係を除けるわけではありません。施策がなかった場合との比較をどう作るか、どの仮定で効果を分けるかは、研究設計に応じて確かめます。
報告から分かる範囲を言い分けることが大切です。「継続回答した人の状態が変わった」「集団全体の割合が変わった」「施策によって変わった」は同じ主張ではありません。追跡の対象と比較の方法が、どの主張を支えるかを見ます。
- 横断調査
一時点の集団の状態を調べる
- 反復横断調査
各時点の集団を調べる。同じ人とは限らない
- パネル調査
同じ標本単位を繰り返し調べて対応させる
同じ人を追うかどうかが違います。パネルでも追跡脱落があり、因果効果が自動的に分かるわけではありません。
割合が同じでも人が入れ替わる
架空の例
同じ10人を二回調べます。最初は2人が未就業、8人が就業とします。次の時点では、最初の未就業2人が就業し、最初の就業8人のうち別の2人が未就業になったとします。
未就業の割合は両時点で2÷10=20%ですが、未就業者2人はどちらも別人です。時点ごとの20%だけでは、この移行は分かりません。この例の未就業は仕事をしていない状態として置いたもので、公的な失業率の定義を使った計算ではありません。
持ち帰る見方
- 各時点の集計だけでは、同じ人の状態の移行を復元できません。
- パネル調査では、追跡の対象・脱落・人口の加入や退出を確認します。
- 同じ人の前後の変化だけで、施策の因果効果を決めません。
次に広がる疑問
- 内訳の改善と全体の悪化は、どう両立する?
- 二つの数字の関係から、原因を分けるには何が必要?
順番に読んでいる方へ
出典
Survey Methods and Practices(カナダ統計局(Statistics Canada))https://www150.statcan.gc.ca/n1/en/pub/12-587-x/12-587-x2003001-eng.pdf
確認日:2026-10-04
Forecasting: Principles and Practice (3rd ed), 7.8 Correlation, causation and forecasting(Rob J Hyndman・George Athanasopoulos / OTexts)https://otexts.com/fpp3/causality.html
確認日:2026-10-04
本文の出典・補足
同じ割合でも、同じ人とは限らない
別々の時点の集団平均や割合だけでは、同じ人がどの状態からどの状態へ移ったかは分からない。同じ標本単位を繰り返し調べるパネル調査はその人の時間変化を追える。
- 対象
- 6.3.1、頁112~114
- 条件
- 同じ標本単位を複数時点で追う調査。集計値と個人対応データを区別
- 例外・限界
- 集計の変化を全員の一様な変化へ読み替えない
Survey Methods and Practices(カナダ統計局(Statistics Canada))https://www150.statcan.gc.ca/n1/en/pub/12-587-x/12-587-x2003001-eng.pdf
追い続けられた人だけでよいか
パネル調査は追跡脱落・回答負担・人口の新規加入や退出などで代表性を維持しにくく、回答者だけを残すと最初の集団と比較対象が変わり得る。
- 対象
- 6.3.1、頁113~114、3.4.2.3頁32~33
- 条件
- 同じ人の継続回答、脱落が状態と関連する場合の選択
- 例外・限界
- 脱落者が必ず特定の状態に偏るとはしない。再重み付けで全て解消するとはしない
Survey Methods and Practices(カナダ統計局(Statistics Canada))https://www150.statcan.gc.ca/n1/en/pub/12-587-x/12-587-x2003001-eng.pdf
前後の変化だけで政策の効果を決めない
同じ人の前後を観測しても、同時に変わった他の要因や逆方向の関係を除けるとは限らないため、その変化だけを施策の因果効果と呼ぶことはできない。
- 対象
- 7.8 Correlation is not causation とconfounding
- 条件
- 観察上の関係と因果の区別をパネルの前後比較へ適用
- 例外・限界
- 因果識別に必要な比較・仮定は研究設計ごとに異なる
Forecasting: Principles and Practice (3rd ed), 7.8 Correlation, causation and forecasting(Rob J Hyndman・George Athanasopoulos / OTexts)https://otexts.com/fpp3/causality.html