経済の基礎
機械やAIができる仕事が増えると、雇用は全部減る?
機械やAIが一部の作業をできるようになっても、仕事全体の人数が同じだけ減るとは限りません。人の作業を置き換える効果、生産性が上がって残る作業への需要が増える効果、人に向く新しい作業が生まれる効果を分けます。その組合せから雇用全体を考える必要があります。
基本の用語
一つの職業は複数の作業を含みます。自動化とは、人が行っていた作業の一部を、機械やソフトウェアで行えるようにする変化です。作業と職業を分けて考えます。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 分業すると効率が上がる一方、何に依存する?専門化には習熟・得意分野・規模の利点がありうる。
- 生産性が上がるとは、忙しく働くこと?産出と投入の両方を確認する。
職業をいくつかの作業に分ける
経済学者ダロン・アセモグルとパスカル・レストレポの2019年の論文は、生産を複数の作業に分け、その作業を人と機械へ配分する模型を示します。一つの商品にも、設計、製造、販売などの作業があり、同じ方法で全部を自動化するとは限りません。
模型では企業が費用を比べ、自動化できる作業に機械を使うと考えます。機械にはソフトウェアも含まれます。「ある作業を機械でできる」は、担当者が行っていた別の作業まで不要になるという情報とは違います。職業名だけより、何の作業が変わるかを見る方が比較が具体的になります。
また、技術的にできることと、どの費用で実際に採用するかは分ける必要があります。ここで扱うのは、費用を最小にする企業が自動化可能な作業へ機械を使うという前提の模型です。あるAIの紹介だけから、現実のすべての職場の採用まで決まるわけではありません。
置き換えと生産性の効果を分ける
一つ目は、人がしていた作業を機械へ移す置き換えの効果です。その作業に使う人の労働は減る方向に動きます。二つ目は、費用の節約で生産性が上がり、残った人の作業への需要が増える効果です。二つは同時に考えられます。
原論文は、生産性の効果が置き換えの効果より必ず大きいとはしません。生産性が上がったという事実だけで、労働への需要も必ず増えると結論できないからです。同じ自動化という言葉でも、節約の大きさと、どの作業を移すかを比べる必要があります。
論文は労働への需要を、企業が労働に払う賃金総額などの関係から考えています。賃金総額の変化は、人数だけでなく賃金の変化にも分かれます。作業時間が減った割合、賃金総額の変化、就業人数の変化を、同じ数字として扱わないことが重要です。
新しい作業が誰に向くかを見る
模型では、人に比較優位のある新しい作業が生まれると、労働の役割を増やす効果があります。以前の作業を機械へ移す変化と、人が担う作業を追加する変化を分けると、技術の変化は一方向だけではないことが分かります。
ただし新しい作業なら何でも人の役割が増えるとはしません。機械に向いた新作業もあり、この論文で人の役割を増やすと説明するのは、人に比較優位のある作業です。新技術の名前が増えたというだけでは、どちらへ配分されるかは分かりません。
将来の雇用全体を考えるには、置き換え、生産性、新作業の組合せと、賃金や労働供給等の調整を見ます。この模型は、現在のAIで何年に何人の仕事がなくなるという予測ではありません。具体的な職場を考えるときは、作業ごとの変化から問いを立てます。
一部の作業時間が減ることと、人数を分ける
架空の店舗で、一日の仕事100時間のうち、入力作業30時間をソフトウェアへ移すと設定します。他の作業の量が同じなら、人が行う時間は70時間になります。しかし売れる量が変わり、接客や新しい作業も増えるなら、店全体の時間は別に計算する必要があります。
この100時間と30時間は実際のAIの測定結果ではありません。また時間が減ることから直ちに従業員を30%減らすとは設定していません。担当者の人数と勤務時間、作業の配分をどう変えるかは、残る問いです。
持ち帰る見方
- 機械化できる作業と、職業全体を区別する。
- 置き換えの効果と生産性の効果を合わせて考える。
- 人に向く新作業と、人数・時間・賃金の調整を分ける。
次に広がる疑問
- 産出と投入時間の比を読む
- 新たな技能を得る費用と便益を考える
順番に読んでいる方へ
出典
Automation and New Tasks: How Technology Displaces and Reinstates Labor, NBER Working Paper 25684(Daron Acemoglu・Pascual Restrepo/NBER (March 2019))https://www.nber.org/system/files/working_papers/w25684/w25684.pdf
確認日:2026-10-04
本文の出典・補足
職業をいくつかの作業に分ける
作業配分の模型では、一つの製品・サービスに複数の作業があり、自動化は人が担当していた一部の作業を機械・ソフトウェアが担えるようにする変化である。
- 対象
- Acemoglu–Restrepo WP25684, Conceptual Framework / Tasks and Production pp.5–7
- 条件
- 企業が費用最小化で機械化可能な作業に資本を使い、新作業を採用する模型
- 例外・限界
- 一部の作業を代替できることと職業全体がなくなることを同一視しない
Automation and New Tasks: How Technology Displaces and Reinstates Labor, NBER Working Paper 25684(Daron Acemoglu・Pascual Restrepo/NBER (March 2019))https://www.nber.org/system/files/working_papers/w25684/w25684.pdf
置き換えと生産性の効果を分ける
自動化には人の作業を置き換える効果と、生産性向上によって残る作業への需要が増える効果があり、どちらが強いかで労働への需要が変わる。
- 対象
- Acemoglu–Restrepo WP25684, Technology and Labor Demand pp.8–9
- 条件
- 費用節約を生む自動化の模型で、労働需要を賃金総額等の観点で評価
- 例外・限界
- 生産性向上で必ず雇用人数が増えるとも、作業の代替だけで全体の人数が決まるともいわない
Automation and New Tasks: How Technology Displaces and Reinstates Labor, NBER Working Paper 25684(Daron Acemoglu・Pascual Restrepo/NBER (March 2019))https://www.nber.org/system/files/working_papers/w25684/w25684.pdf
新しい作業が誰に向くかを見る
人に比較優位のある新しい作業が生まれる場合は、労働の役割を増やす効果がある。雇用全体の将来は新技術の組合せや賃金等の調整にも関わる。
- 対象
- Acemoglu–Restrepo WP25684 pp.3–4 n.1、pp.8–10
- 条件
- 新作業は人に比較優位がある労働集約的な作業を指す。賃金総額の変化の人数・賃金への配分は本文で明示的にモデル化されない
- 例外・限界
- 新作業ならすべて雇用を増やす、現在のAIなら何年に何人という予測へ一般化しない
Automation and New Tasks: How Technology Displaces and Reinstates Labor, NBER Working Paper 25684(Daron Acemoglu・Pascual Restrepo/NBER (March 2019))https://www.nber.org/system/files/working_papers/w25684/w25684.pdf