経済の基礎

株価が高いと、会社は設備を増やしたくなる?

企業の市場評価が設備を作り直す費用より高いと、新しい設備投資が有利だという手掛かりになる模型があります。トービンのQはこの比較ですが、企業全体の平均評価と、追加する設備の利益は同じではありません。一株の値段だけで投資額や時期は決まりません。

基本の用語

株式の市場価格は取引される持分の価格で、会社へ新しく入る資金とは区別します。Qの理論は、市場の評価と生産に使う資本の費用を結び、設備を追加する判断を考えます。

もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。

市場評価を、同じ設備を作る費用と比べる

平均Qは、企業への金融的な請求権の市場価値を、今ある実物資本を作り直す費用で割る比です。ここで使う模型では、市場評価に株式と債務を含め、分母は投資財の価格と既存資本量から計算します。

株式一株の価格だけでは企業全体の評価は分かりません。また帳簿の純資産と、今同じ設備を用意する費用も違います。どの時点の、どの資本の費用かをそろえずに、違う比率をQと読み替えないようにします。

追加する一台の利益と、追加費用を比べる

限界Qは、資本を一単位追加したときの将来収益の価値を、その購入価格と比べます。追加の一台が生む利益を考えるので、既存設備全体の平均的な評価と無条件には一致しません。

投資には機器の購入だけでなく、設置や調整にも追加費用がかかります。将来の収益を現在の価値へ割り引き、減耗と調整費用を含めて、追加する便益と費用を比べるのが模型の判断です。

平均Qと限界Qが一致する条件を確かめる

観測しやすい平均Qを、追加投資を判断する限界Qの代わりに使えるかは、模型の前提に依存します。Chirinkoの理論研究は、完全競争や生産・調整費用などが規模に比例する条件を置き、資金調達政策の扱いも分けます。

企業が借入や株式調達をどう選ぶかによって、平均と限界をつなぐ関係が変わります。税の調整も関わるので、平均Qが常に限界Qと等しいという公式だけを取り出すことはできません。

高い市場評価が、そのまま設備増設になるか

平均Qが1を超えるなら、市場評価が再調達費用を上回っています。その評価は追加投資を考える手掛かりになりえますが、追加設備の収益や調整費用を確かめる問いは残ります。全企業が直ちに同じ量を投資する規則ではありません。

Chirinkoが資金調達政策も企業の選択とする模型では、平均Qだけでは投資判断に十分な指標になりません。市場で株式が値上がりしたというニュースと、設備が実際に増えることを、間の条件を飛ばして結び付けないことが大切です。

企業全体の評価と、追加設備の比較

架空の例

ある模型で株式の市場価値を120万円、債務の価値を80万円、既存設備を作り直す費用を100万円と置くと、平均Qは(120+80)/100=2です。一株の価格と帳簿純資産の比を求めているわけではありません。

一方、追加設備の将来収益を減耗と割引を反映して現在価値12万円とし、購入費が10万円、追加の設置・調整費が3万円と置けば、その便益12万円は費用合計13万円を下回ります。平均Qと限界の利益を同一視しないための設定で、両者が一致する特別な模型の数値例ではありません。

持ち帰る見方

  • 企業全体の平均Qと、追加する資本の限界Qを分ける。
  • 高い市場評価から実際の投資へは、費用と模型条件を確かめる。

次に広がる疑問

  • 株価と、会社へ入る資金の違いを読む
  • 借入・株式調達と投資の判断を分ける
  • 設備を増やしたときの生産の増分を読む

学習地図で、ほかの分野とのつながりを見る

出典

  • Tobin’s Q and Financial Policy, NBER Working Paper 2082(Robert S. Chirinko / National Bureau of Economic Research)https://www.nber.org/system/files/working_papers/w2082/w2082.pdf

    確認日:2026-10-05

本文の出典・補足

市場評価を、同じ設備を作る費用と比べる

平均Qは、企業への金融的な請求権の市場価値を、既存の実物資本を作り直す費用で割って比べる。企業価値に株式と債務を含める模型で、個別の株価や帳簿上の純資産との比率とは違う。

対象
市場評価と設備投資を結ぶ、将来を見通す企業のQ模型。
条件
模型の平均Q=(株式価値+債務価値)/(投資財価格×既存資本量)として、同じ時点・同じ資本範囲を比較する。
例外・限界
一株の価格が高いだけでは平均Qが高いと判断できない。市場評価と帳簿価額・資産の再調達費用は異なる。
  • Tobin’s Q and Financial Policy, NBER Working Paper 2082(Robert S. Chirinko / National Bureau of Economic Research)https://www.nber.org/system/files/working_papers/w2082/w2082.pdf

追加する一台の利益と、追加費用を比べる

限界Qは、資本を一単位追加したときに得る将来収益の価値を購入価格と比べる。投資の選択では、設備の購入費用に加え、設置・調整に要する追加費用とも比べる。

対象
市場評価と設備投資を結ぶ、将来を見通す企業のQ模型。
条件
将来収益を割り引き、資本の減耗と凸型の調整費用を考える最適化模型。
例外・限界
企業全体の平均的な評価を、追加する設備の収益と無条件に同一視しない。
  • Tobin’s Q and Financial Policy, NBER Working Paper 2082(Robert S. Chirinko / National Bureau of Economic Research)https://www.nber.org/system/files/working_papers/w2082/w2082.pdf

平均Qと限界Qが一致する条件を確かめる

平均Qを限界Qの代わりに使えるかは模型の条件に依存する。完全競争や、生産・調整費用等が規模に比例する条件だけでなく、資金調達政策の扱いも関わる。

対象
市場評価と設備投資を結ぶ、将来を見通す企業のQ模型。
条件
Chirinkoの模型は完全競争と技術等の一次同次性を置き、財務政策を所与とする場合と企業が選ぶ場合を分ける。
例外・限界
税制調整や資金調達の影響があれば単純な平均Qが限界Qと一致するとは限らない。
  • Tobin’s Q and Financial Policy, NBER Working Paper 2082(Robert S. Chirinko / National Bureau of Economic Research)https://www.nber.org/system/files/working_papers/w2082/w2082.pdf

高い市場評価が、そのまま設備増設になるか

平均Qが高いことは追加投資が有利だという手掛かりになりうるが、それだけで投資額や実行時期が決まるわけではない。資金調達政策を企業が選ぶ模型では、平均Qだけでは十分な投資判断の指標にならない。

対象
市場評価と設備投資を結ぶ、将来を見通す企業のQ模型。
条件
平均Qと限界Qの結びつき、設備の調整費用、借入・株式調達の選択を区別する。
例外・限界
Qが1を超えれば全企業が即座に一定量を投資するという普遍的な規則でも、株式購入の推奨でもない。
  • Tobin’s Q and Financial Policy, NBER Working Paper 2082(Robert S. Chirinko / National Bureau of Economic Research)https://www.nber.org/system/files/working_papers/w2082/w2082.pdf