経済の基礎

設備に投資しているのに、一人あたりの設備が増えなくなるのはなぜ?

投資の一部は、古くなる設備の補充や、増えた働き手に設備を行き渡らせるために使われます。一定の条件を置くソロー模型では、その必要量と投資がつり合うと、一人あたりの資本は増えなくなります。投資も経済全体の生産も止まる、という意味ではありません。

基本の用語

資本は生産に使う設備などです。ここでは一種類の財で資本を測り、同じ時間働く人を労働量として数える単純な経済を考えます。まず技術が変わらず、所得から投資へ回す割合も一定と置きます。

もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。

設備の総量と、一人あたりの設備を分ける

設備が100単位、働き手が10人なら、一人あたりの資本は10単位です。設備が110単位へ増えても、働き手も11人へ増えれば一人あたりは10単位のままです。設備の総量が増えたことだけでは、各人に行き渡る量が増えたとは言えません。

この比率を資本総量Kと労働量Lの比、K/Lで表します。同じ設備の質や働く時間をそろえて考える模型なので、現実の会社の機械の性能や稼働率までこの割り算一つで評価するわけではありません。

投資から、減耗と人数増加に必要な分を引く

新たな投資で設備を増やしても、同時に古くなって使えなくなる設備があります。さらに人数が増えれば、同じ一人あたり設備量を保つためにも追加設備が要ります。投資した分をすべて、一人あたり資本の純増と数えてはいけません。

時間を連続的に扱う模型では、一人あたり資本kの変化はsf(k)−(δ+n)kです。sは所得を投資へ回す割合、f(k)は一人あたり生産、δは減耗率、nは労働増加率です。年末の人数で割る厳密な年次計算と、この連続時間の式は区別します。

増やす投資と維持する投資がつり合う

一人あたり投資sf(k)が必要補充の(δ+n)kと等しくなると、一人あたり資本は変わりません。このつり合いが定常状態です。設備を保つための投資は続いているので、投資がゼロの状態ではありません。

労働量が増える場合には、一人あたり資本を一定に保ちながら資本総量も増えます。生産総量も増えうるため、定常という言葉を、社会の活動全体が静止したという意味で読むと誤ります。

同じ条件なら、つり合う水準へ近づく

同じ模型の条件では、資本が定常水準より少ないと投資が必要補充を上回り、資本が増える方向へ進みます。多すぎると必要補充が投資を上回り、減る方向へ進みます。つり合う水準を境に変化の向きが違います。

この結論には、資本を追加したときの生産の増分が小さくなることや、正の資本量で投資と補充がつり合う条件が必要です。貯蓄率や技術が変われば向かう水準も変わります。あらゆる作り方に同じ定常水準があるわけではありません。

技術が進むと、一定とする基準が変わる

同じ人数でも生産できる量を高める技術指標Aが一定率で進む模型へ拡張すると、一定になる基準はK/LからK/(AL)へ変わります。人数に技術の働きを加えた、効率単位あたりの比率を考えるためです。

その比率が一定でも、Aが増えれば実際の一人あたり資本や生産は増えうるので、技術一定の場合と区別します。この模型は技術進歩を外から与えます。どんな発明が生まれ、誰が使い始めるかまでは、それだけで説明しません。

一人あたり設備量を保つ、二つの補充
  • 減耗への補充

    古くなって失われる設備を補う。

  • 人数増加への補充

    増えた働き手にも同じ設備量を用意する。

  • 投資とのつり合い

    必要補充と投資が等しければ、一人あたりは変わらない。

技術一定の模型。一人あたりの一定と、設備総量の一定は別です。

人数も増えると、一人あたりは同じになる

架空の例

期首の設備を100単位、働き手を10人とし、一期間の投資が20単位、期間中に失われる設備が10単位と置きます。期末の設備は110単位です。働き手が11人になれば、期首も期末も一人あたり10単位になります。

投資20単位のうち10単位は失われる分を補い、残る10単位は増えた一人へ設備を用意する設定です。これは期首・期末を比べる算数の例で、連続時間の式へ年次の率を代入した厳密な数値解ではありません。

持ち帰る見方

  • 投資額と、一人あたり資本の純増を分ける。
  • 定常状態でも、設備の補充や総量の成長はありうる。

次に広がる疑問

  • 資本を追加したときの生産の増分を読む
  • 貯蓄と投資の計画・会計を分ける
  • 国ごとに到達する条件が違う場合を考える

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出典

  • 14.452 Economic Growth: Lectures 2 and 3, The Solow Growth Model(Daron Acemoglu / MIT OpenCourseWare)https://ocw.mit.edu/courses/14-452-economic-growth-fall-2016/2b68057aa4e74410d00ae89a0c49752f_MIT14_452F16_Lec2and3.pdf

    確認日:2026-10-05

本文の出典・補足

設備の総量と、一人あたりの設備を分ける

一人あたりの資本は資本総量Kを労働量Lで割ったK/Lであり、設備総量が増えても労働量が同じ割合で増えれば変わらない。

対象
単一財のソロー成長模型における実物資本と労働の比率。
条件
資本を同じ財の数量として測り、労働を供給する人口をLで表す単純模型。
例外・限界
企業ごとの設備の質や稼働率の違いを、この比率だけで測るわけではない。
  • 14.452 Economic Growth: Lectures 2 and 3, The Solow Growth Model(Daron Acemoglu / MIT OpenCourseWare)https://ocw.mit.edu/courses/14-452-economic-growth-fall-2016/2b68057aa4e74410d00ae89a0c49752f_MIT14_452F16_Lec2and3.pdf

投資から、減耗と人数増加に必要な分を引く

技術が変わらない連続時間の模型では、一人あたり資本の増加は投資sf(k)から、減耗δkと労働増加による希薄化nkを引いたものになる。

対象
単一財のソロー成長模型における実物資本と労働の比率。
条件
貯蓄率s・減耗率δ・労働増加率nを一定とし、閉鎖経済の貯蓄が同じ実物財への投資になる。
例外・限界
sf(k)−(δ+n)kは連続時間の式であり、年ごとの変化率をそのまま厳密な離散時間式へ置換しない。
  • 14.452 Economic Growth: Lectures 2 and 3, The Solow Growth Model(Daron Acemoglu / MIT OpenCourseWare)https://ocw.mit.edu/courses/14-452-economic-growth-fall-2016/2b68057aa4e74410d00ae89a0c49752f_MIT14_452F16_Lec2and3.pdf

増やす投資と維持する投資がつり合う

定常状態は一人あたり資本が変わらない状態で、投資と減耗・労働増加に必要な補充分がつり合う。投資がゼロになるという意味ではない。

対象
単一財のソロー成長模型における実物資本と労働の比率。
条件
技術一定、一定貯蓄率・減耗率・労働増加率の模型でsf(k*)=(δ+n)k*となる。
例外・限界
労働量が増えている定常状態では資本総量や生産総量も増えうる。一人あたりの一定と経済全体の停止は異なる。
  • 14.452 Economic Growth: Lectures 2 and 3, The Solow Growth Model(Daron Acemoglu / MIT OpenCourseWare)https://ocw.mit.edu/courses/14-452-economic-growth-fall-2016/2b68057aa4e74410d00ae89a0c49752f_MIT14_452F16_Lec2and3.pdf

同じ条件なら、つり合う水準へ近づく

同じ模型の条件では、定常水準より資本が少ないと投資が必要補充を上回って増え、多いと必要補充が投資を上回って減り、定常水準へ近づく。

対象
単一財のソロー成長模型における実物資本と労働の比率。
条件
0<s<1の一定貯蓄率と正の減耗率、一定の非負の労働増加率を置く。限界生産物は逓減し、資本が非常に少ないときは大きく、多いときは小さくなる生産関数で、正の初期資本から比べる。
例外・限界
貯蓄率や技術など条件が変われば向かう水準も変わる。全ての生産技術が同じ定常を持つわけではない。
  • 14.452 Economic Growth: Lectures 2 and 3, The Solow Growth Model(Daron Acemoglu / MIT OpenCourseWare)https://ocw.mit.edu/courses/14-452-economic-growth-fall-2016/2b68057aa4e74410d00ae89a0c49752f_MIT14_452F16_Lec2and3.pdf

技術が進むと、一定とする基準が変わる

労働の働きを高める技術が一定率で進歩する拡張では、一定になるのは効率単位あたり資本K/(AL)である。その状態でも実際の労働者一人あたりの資本や生産は増えうる。

対象
労働増大的技術進歩を外から与えるソロー模型。
条件
技術指標Aの成長率gと労働増加率nが一定で、効率単位あたり投資は(δ+n+g)kを補充する。
例外・限界
K/(AL)をK/Lと同じ指標にはしない。模型は技術進歩を外から与え、発明や普及の原因をそれだけで説明しない。
  • 14.452 Economic Growth: Lectures 2 and 3, The Solow Growth Model(Daron Acemoglu / MIT OpenCourseWare)https://ocw.mit.edu/courses/14-452-economic-growth-fall-2016/2b68057aa4e74410d00ae89a0c49752f_MIT14_452F16_Lec2and3.pdf