経済の基礎
同じ技能なのに、集団の印象で採用や賃金が違うのはなぜ?
同じ技能でも、雇う側が集団属性を費用のように扱ったり、不完全な個人情報を集団平均で補ったりすると、評価が違う模型があります。前者は嗜好差別、後者は統計的差別です。説明の模型があることは、差別を正当化する理由にはなりません。
基本の用語
技能そのものと、雇う側が予想した技能は別です。個人の能力を十分確かめられないとき、何を根拠に採用や報酬を決めたかを考えます。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 給料が高い仕事は、必ず働く人に有利?補償賃金差の競争模型と、情報・移動条件の限界を示す。
- 学歴は、技能と採用時の目印のどちらになる?技能を増やす経路と、技能を伝える経路を分ける。
技能の違いと、評価の違いを分ける
経済学で差別を考えるときは、生産性以外の集団属性が採用や報酬の評価に関わる仕組みに注目する。集団間の結果の差だけで仕組みは一つに決まらない。
賃金差には、働く条件や生産性の差という別の要素もありえます。だから平均賃金が違うという結果だけから、嗜好が原因なのか、情報の使い方が原因なのかは決まりません。このページは二つの仕組みを切り分けます。
模型で同じ技能と置くのは、評価が変わる経路を明らかにするためです。現実の特定の人の技能を測ったことにはなりません。集団全体の平均から個人の能力を断定することも、この区別を逆にしてしまいます。
嫌っている相手を、高い費用のように扱う
嗜好に基づく差別の模型では、同じ生産性でも特定集団と働くことへの不利益を持つ雇用者が、その集団の雇用を実際の賃金より高い費用のように評価する。
雇う側の不利益をd、賃金をwとすると、模型では費用をw+dのように扱います。同じ成果を生む人でも、その属性にdを付ければ、高い費用の働き手と見て採用を避けることがあります。実際の生産費用が増えたわけではありません。
このdは、雇う側の選好を表す模型の値です。差別される側の技能の低さを表す係数ではありません。感情を持たない価格の比較に置き換えても、その感情が評価へ混ざる経路をなくしたことにはなりません。
個人の情報が足りず、集団の情報を使う
統計的差別の模型では、不完全な技能信号に集団の平均についての情報を組み合わせて個人の生産性を予想するため、同じ技能信号でも集団属性で評価が違うことがある。
統計的差別は、必ず嫌悪があるという説明ではありません。個人の技能が直接見えず、試験や実績の情報にも誤差があるとき、個人の信号と集団に関する情報を合わせます。集団平均とその個人の真の技能は一致するとは限りません。
平均が異なる場合だけが問題でもありません。同じ試験結果をどれだけ信用するかが集団によって違えば、同じ結果の人を同じようには評価しないことがあります。信号の精度を仮定することで、その違いを取り出せます。
精度が低い情報ほど、個人を平均へ寄せる
技能信号の誤差が大きい集団については個人の信号への重みを小さくし、集団平均へより強く寄せる模型がある。平均が等しくても同じ高い信号への評価差が生じうる。
平均100、個人の信号120を二つの架空集団で共通とします。信号への重みが0.8なら予想は0.8×120+0.2×100=116、0.4なら108です。同じ高い信号でも、平均へ強く寄せる側の評価が低くなります。
数字は、精度が異なると置いた仮の情報処理です。実在する国籍や性別などへ精度の大小を割り当てていません。経済模型による説明と、法的に許されるか、倫理的に認めるかという判断を分け、現実を確かめるには別の資料を使います。
条件を置いた具体例
架空の集団AとBの平均技能をともに100、応募者の試験信号をともに120とします。雇用者はAの信号へ0.8、Bへ0.4の重みを付け、残りを平均へ付ける設定です。
予想技能はAが116、Bが108です。個人の真の技能がその予想と等しいとは置いていません。同じ信号への評価差の計算で、実在集団の技能差や、どの判断が法的に適切かを示す例ではありません。
持ち帰る見方
- 同じ技能でも、雇う側が集団属性を費用のように扱ったり、不完全な個人情報を集団平均で補ったりすると、評価が違う模型があります。
- 技能信号の誤差が大きい集団については個人の信号への重みを小さくし、集団平均へより強く寄せる模型がある。平均が等しくても同じ高い信号への評価差が生じうる。
次に広がる疑問
- 給料が高い仕事は、必ず働く人に有利?
- 給料は、働く量だけで決まる?
出典
Discrimination: Theory, MIT14.662 (2015)(MIT OpenCourseWare / Heidi Williams)https://ocw.mit.edu/courses/14-662-labor-economics-ii-spring-2015/d2837ffd3e195e862d8c97044796a31c_MIT14_662S15_lecnotes19.pdf
確認日:2026-10-05
本文の出典・補足
技能の違いと、評価の違いを分ける
経済学で差別を考えるときは、生産性以外の集団属性が採用や報酬の評価に関わる仕組みに注目する。集団間の結果の差だけで仕組みは一つに決まらない。
- 対象
- 嗜好差別と統計的差別の経済模型。
- 条件
- 生産の技能と雇用者の評価を分ける。統計的差別は個人技能の信号が不完全で、集団平均と信号精度を用いる模型。
- 例外・限界
- 平均賃金差だけから差別の量や原因を確定しない。模型による説明と法的な適否・倫理的正当化を区別し、現実の特定集団に想定平均を付けない。
Discrimination: Theory, MIT14.662 (2015)(MIT OpenCourseWare / Heidi Williams)https://ocw.mit.edu/courses/14-662-labor-economics-ii-spring-2015/d2837ffd3e195e862d8c97044796a31c_MIT14_662S15_lecnotes19.pdf
嫌っている相手を、高い費用のように扱う
嗜好に基づく差別の模型では、同じ生産性でも特定集団と働くことへの不利益を持つ雇用者が、その集団の雇用を実際の賃金より高い費用のように評価する。
- 対象
- 嗜好差別と統計的差別の経済模型。
- 条件
- 生産の技能と雇用者の評価を分ける。統計的差別は個人技能の信号が不完全で、集団平均と信号精度を用いる模型。
- 例外・限界
- 平均賃金差だけから差別の量や原因を確定しない。模型による説明と法的な適否・倫理的正当化を区別し、現実の特定集団に想定平均を付けない。
Discrimination: Theory, MIT14.662 (2015)(MIT OpenCourseWare / Heidi Williams)https://ocw.mit.edu/courses/14-662-labor-economics-ii-spring-2015/d2837ffd3e195e862d8c97044796a31c_MIT14_662S15_lecnotes19.pdf
個人の情報が足りず、集団の情報を使う
統計的差別の模型では、不完全な技能信号に集団の平均についての情報を組み合わせて個人の生産性を予想するため、同じ技能信号でも集団属性で評価が違うことがある。
- 対象
- 嗜好差別と統計的差別の経済模型。
- 条件
- 生産の技能と雇用者の評価を分ける。統計的差別は個人技能の信号が不完全で、集団平均と信号精度を用いる模型。
- 例外・限界
- 平均賃金差だけから差別の量や原因を確定しない。模型による説明と法的な適否・倫理的正当化を区別し、現実の特定集団に想定平均を付けない。
Discrimination: Theory, MIT14.662 (2015)(MIT OpenCourseWare / Heidi Williams)https://ocw.mit.edu/courses/14-662-labor-economics-ii-spring-2015/d2837ffd3e195e862d8c97044796a31c_MIT14_662S15_lecnotes19.pdf
精度が低い情報ほど、個人を平均へ寄せる
技能信号の誤差が大きい集団については個人の信号への重みを小さくし、集団平均へより強く寄せる模型がある。平均が等しくても同じ高い信号への評価差が生じうる。
- 対象
- 嗜好差別と統計的差別の経済模型。
- 条件
- 生産の技能と雇用者の評価を分ける。統計的差別は個人技能の信号が不完全で、集団平均と信号精度を用いる模型。
- 例外・限界
- 平均賃金差だけから差別の量や原因を確定しない。模型による説明と法的な適否・倫理的正当化を区別し、現実の特定集団に想定平均を付けない。
Discrimination: Theory, MIT14.662 (2015)(MIT OpenCourseWare / Heidi Williams)https://ocw.mit.edu/courses/14-662-labor-economics-ii-spring-2015/d2837ffd3e195e862d8c97044796a31c_MIT14_662S15_lecnotes19.pdf