数字と報道
支援が所得を増やしたのは、就職を通じた効果だと分けられる?
就職を通じた効果を分けるには、総効果だけを調べるより追加の仮定が必要です。何を媒介変数として、どんな介入や反実仮想を比べるかを決めます。回帰に就職の有無を加えて係数が小さくなっただけでは、媒介した割合は分かりません。
基本の用語
支援が就職を変え、就職が所得を変えるという経路を考えるのが媒介分析です。支援そのものの効果と、途中の変数に介入する効果は違う問いです。
もう少し詳しく知りたいときは、次の基礎で補えます。
- 二つの数字が一緒に動けば、原因が分かる?相関・反実仮想と比較条件
総効果と経路の問いを分ける
支援をA、就職をM、所得をYと置くと、AからMを通ってYへ向かう経路と、Mを通らない経路を分けたい、という問いになります。まず支援、就職、所得がどの時点を指すかを定めます。
就職者の所得が高いという関連だけで、支援が就職を通じて所得を増やしたとはいえません。就職が支援より前なら媒介の並び自体が違いますし、能力や健康などの共通原因が関係する場合もあります。
例えば就職を媒介に置くと、就職以外の所得経路は直接側に入ります。別の媒介を選べば経路の分類も変わるため、「直接だから仕組みがない」という意味ではありません。何を通らない効果かという定義です。
何を固定する直接効果かを決める
制御直接効果は、媒介を全員で同じ指定値に固定したときの処置間の結果差です。例えば就職状態を一定にした介入を定義して、支援が所得に与える差を考えます。その介入が何を意味するかも必要です。
自然直接効果は、各人の媒介を「支援がなければその人が取った値」に置いたときの比較です。人ごとに違う反実仮想を使い、全員を同じ就職状態へ固定する制御直接効果とは異なります。直接効果という名称だけで同一視しません。
「就職を同じにする」といっても、同じ仕事の条件までそろえるか、就職の有無だけを置くかで介入の内容が異なります。統計上の変数の指定と、現実にどんな状態へ変える問いなのかを対応させます。
媒介と結果の交絡も必要になる
支援が無作為に割り当てられても、就職は同じように無作為ではありません。就職と所得の共通原因が残れば、媒介経路の識別には問題が残ります。直接効果の識別には、処置と媒介の両方について、一貫性、正値性、交換可能性の条件を検討します。
就職を回帰に加える操作は、これらの条件を証明しません。特に支援後の変数を条件にする場合、比較する人の構成も変わりえます。総効果に使った設計だけで、経路別の因果効果が全部分かるとは考えないようにします。
就職した人だけで支援のある人とない人を比較すると、支援により就職した人と、支援なしでも就職した人が混ざります。その比較を直接効果の定義へ結び付けるには追加の議論が必要で、集団を絞っただけでは足りません。
足し算できる条件を守る
平均差の尺度では、定義をそろえた純粋直接効果と総間接効果を足して総効果と表す分解があります。ただし自然効果の識別では、同じ人について同時に起きない処置世界の反実仮想を組み合わせます。
自然効果を識別する媒介公式には、その別世界の変数間の独立性など、通常の無作為実験では検証できない追加仮定が要ります。推定した割合を読む前に、どの直接・間接効果と尺度を使い、どんな仮定で観測データと結び付けたかを確かめます。
また金額差として足し算した結果と、比率の尺度を使う結果では、分解の表示も異なります。どの尺度で何を足したかが分かれば、総効果の何割という表現がその定義に対応しているかを確かめられます。
- 制御直接効果
全員の媒介を同じ指定値に固定して支援の差を比べる。
- 自然直接効果
各人の媒介を、その人が支援なしなら取った値へ置く。
自然効果は同時観測できない反実仮想を組み合わせ、識別に追加の仮定を使う。
同じ就職と支援なしの就職
架空の支援で、支援なしでも就職する人と、支援があって初めて就職する人を考えます。自然直接効果の媒介値は前者なら就職、後者なら非就職という、各人の支援なしの状態です。
これは全員を非就職に固定する制御直接効果と違います。各人の支援なし・ありを両方観測できないため、この図式だけで効果の金額や就職経由の割合を計算しません。
考えるときの注意点
- 加法尺度の一つの分解を説明する。自然効果の比率が全ての尺度で同じとはしない。
持ち帰る見方
- 媒介は因果経路に関する追加の問い。
- 制御直接効果と自然直接効果を分ける。
- 無作為の支援だけで媒介の交絡は消えない。
次に広がる疑問
- 二つの数字が一緒に動けば、原因が分かる?
- 年齢などを調整した比較なら、政策の効果が分かる?
- 調べる対象を絞るだけで、ないはずの関係が現れる?
順番に読んでいる方へ
出典
Causal Inference: What If(Miguel A. Hernán / James M. Robins)https://miguelhernan.org/s/hernanrobins_WhatIf_2jan25.pdf
確認日:2026-10-05
本文の出典・補足
総効果と経路の問いを分ける
因果媒介分析は処置の総効果を、指定した媒介変数を通る経路と通らない経路へ分ける問いを扱う。
- 対象
- 2025年1月2日PDF。Technical Points 22.1–22.2、§23.1。
- 条件
- 処置→媒介→結果の時間と介入の意味を定義。
- 例外・限界
- 媒介というラベルだけで経路が証明されない。
Causal Inference: What If(Miguel A. Hernán / James M. Robins)https://miguelhernan.org/s/hernanrobins_WhatIf_2jan25.pdf
何を固定する直接効果かを決める
制御直接効果は媒介を同じ指定値に置いた場合の処置間の結果差であり、自然直接効果は各人の媒介を無処置なら取った値に置くという別の反実仮想である。
- 対象
- 2025年1月2日PDF。Technical Points 22.1–22.2、§23.1。
- 条件
- 媒介への介入を定義、自然効果は反実仮想の値を使う。
- 例外・限界
- 自然効果は全員を一つの媒介値へ固定する効果と異なる。
Causal Inference: What If(Miguel A. Hernán / James M. Robins)https://miguelhernan.org/s/hernanrobins_WhatIf_2jan25.pdf
媒介と結果の交絡も必要になる
処置が無作為化されても媒介と結果の共通原因まで除けたとは限らない。直接/間接効果の識別には媒介と結果の交絡への条件が追加で必要である。
- 対象
- 2025年1月2日PDF。Technical Points 22.1–22.2、§23.1。
- 条件
- 一貫性・正値性・交換可能性を処置と媒介について検討。
- 例外・限界
- 媒介を回帰へ加えるだけで因果経路の割合が得られるわけではない。
Causal Inference: What If(Miguel A. Hernán / James M. Robins)https://miguelhernan.org/s/hernanrobins_WhatIf_2jan25.pdf
足し算できる条件を守る
平均差の尺度では純粋直接効果と総間接効果を合わせて総効果を表せるが、自然効果の識別には同一人で同時観測できない反実仮想間の独立性など追加の仮定を使う。
- 対象
- 2025年1月2日PDF。Technical Points 22.1–22.2、§23.1。
- 条件
- 定義した効果/同じ集団/加法尺度/仮定を固定。
- 例外・限界
- 普通の無作為試験だけでそのcross-world仮定を検証できない。
Causal Inference: What If(Miguel A. Hernán / James M. Robins)https://miguelhernan.org/s/hernanrobins_WhatIf_2jan25.pdf